詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
花びらを一つも残さず
桜は散り去った
わたしはそれを
どうとも思わず見上げる
あの人は べつだん
理由も述べないまま
さよなら と言った
理由というのは
聞くことによって 結果が
かわってくるのでなければ
意味はなさない
と わたしは思っている
あの人の背中が
完全に見えなくなるまで
上を見上げていたので
わたしの視界には
葉っぱだけの桜の枝と
その向こうの空しか
なかった
桜は 散り去った
わたしは それを
どうとも思わない
桜はまた 咲く
来年もまた
桜はまた 咲く
それを約束されている
おいてけぼりの
わたしをよそに
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
眼下に広がる海では
白波が立ち
うさぎのごとく 跳ねている
岩を打った波のしぶきが
わたしのところまでとどき
涙のごとく 頬をつたう
それが波だ、と言い張るわたしを
それは涙、だろうとうさぎは笑う
この場所を
立ち去る理由を探して
すべもないわたしは
抱えていた想いを
粉々に砕いて
海にばらまいた
風が それを運んでいく
波が それを飲み込んでいく
うさぎは それをつかまえて遊ぶ
遠くには 島がかすむ
そこでも誰かがこうして
今まさに 海になにかを捨てている
かもしれない
ああ それでは
うさぎたちは 落ち着かないであろうな
と
少し軽くなったわたしは
思わず くすっと笑い
そこを立ち去った
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
100円玉で買った
にんじんスティックを手に
檻の前に立つ
シマウマは
鼻を鳴らしてこちらを見る
たてがみも立派に
シマウマさん
このにんじんをあげるから
わたしにその黒い縞をちょうだいな
シマウマは無言だったが
その目は了解、と言ったように見えた
交渉成立。
わたしは
黒い縞をぐるぐると巻き取った
帰りがけに
彼のところに寄ろう
そして 彼を
この縞でぐるぐると巻いてしまおう
身動きできないほどに
さて 行くとしましょう
早くも彼が自分のものになった
ような気がして
満足気に歩き出すわたし
にんじんをくわえて
ぶるん、と鼻を鳴らし
満足気にそれを見送る
縞のないシマウマ
シマウマは
縞がなくなったら
シマウマではないのだろうが
シマウマはそれでも
幸せそうだ
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
もしも
好きな人ができたら
四六時中一緒に過ごして
かたときも 離れるのよそう
起きる時間もいっしょで
寝る時間もいっしょ
歯磨きも並んでしよう
トイレだけは我慢してあげてもいい
そばにいて
のべつまくなし
楽しい話をつづける
おしゃべりが嫌いだと言われたら
ただ ただ
隣にいよう
たった 16時間
会わなかっただけで
忘れられてしまったことのある
わたしだから
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
ぼくたちが住む
この星の
実態をしるべく
地球を割ってみることを思いついた
ぼくがやらなくても
いづれ壊れるみたいだよ
と
誰かが言ってたし
床屋の裏の空き地の
なるぺく 草の生えてないとこに
うつぶせに寝転がって
トンカチで
トン トン トン と
地面を 叩いてみた
が
地球は そう簡単に割れはしない
それならば
と
部屋に戻ったぼくは
本棚の上で
ホコリまみれになっている
地球儀を手にして
力いっぱい
トンカチで叩いたら
割れた
地球儀の中は
空っぽだった
何も ない
地球だって
きっと
壊してみたところで
何もないのだろう
何も ないのだよ
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
目の前に扉があったら
きみは 開けるかい
ぼくなら
ノックするだけにとどまる
かもしれない。
その扉の向こうに
光が待っているという
確信がないがために
ぼくは 夢を持たない
人間がみな
夢を持つ生き物なのだとしたら
ぼくは たぶん
それには分類されないであろう
ぼくは 夢を持たない
それでも ぼくは
生きているし
べつだん 不幸せでもない
扉は
ノックするだけでは
その先に何が待っているかは
まったくもって
知ることはできない
人はみな
扉の向こうには
光があるのかもしれないという
希望をもって 扉を開ける
ぼくは 夢を持たない
が、希望くらいは
持ってみてもいいだろうか
ぼくは 夢を持たない
が、ほんの少しの希望くらいは
ぼくは 夢を持たない
ぼくは 希望ならほんの少し持っている
目の前の扉の
ドアノブに 手をかける
ぼくは 夢を持たない
という 夢なら
持っているのかもしれない
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
もう二度と飛べません。
という ワッペンをつけたモノには
誰かの激励や
誰かのねぎらいや
ましてや なぐさめなどは
無用の長物だ
そうとわかっていて
声をかけることは
滅多にない
したがらない
しかし
そのワッペンが本物であると
どうやって見分けられよう
誰にも判断しかねる
誰にも証明しかねる
自分自身さえも
疑ってやまない
それだから 生きている
二度と飛び立てないモノも
最初から飛び立てないモノも
そうして 生きているのだ
ぼくは きっと
ペンギンにだって
思いきり 叫ぶ
飛べ 飛べ
飛べ 飛べ ペンギン
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
コブタ1号は
花壇のパンジーの水遣りを命じられ
コブタ2号とコブタ3号は
駅前のスーパーで
じゃがいも3つとバターを1箱
買ってきて と頼まれ出かけていった
コブタ4号は
そこでおとなしく遊んでて と
自立を申し付けられている
コブタかあさんは
よっこらしょ と
丸椅子に腰をおろし
ワイドショーに目をやっては
ふむふむ とビスケットをかじる
あれれ
ぼくは どうしたらいいの
なんにも頼まれないのって
一番辛いものだよ
こんなの つまんない
そんなこんなの
毎日が過ぎたある日
すぽんっ と
勢いのいい音とともに
ぼくの視界は突然光に満ち溢れた
なにが 起こったんだろう
「あなたを待ってたのよ」
次の瞬間
コブタかあさんが
幸せそうに ぼくを抱きしめた
なんだ
そういうことか。
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
水晶を手にして
天使が舌打ち
思い通りになりゃあしない
ぼくをよく知らない
きみのリアリティは
いつも 悲しみと
奇妙な苦笑いを併発させる
ぼくがいけない
5分前の明日を
きみの手のひらに見つけられなかった ぼくが
きみがいけない
ぼくのつま先が奏でる合図に振り返った きみが
ため息の瞬間
舌打ち天使は
水晶をポッケに入れ
背中の羽を丁寧に折りたたみながら
きみの中に 帰っていった
ぼくの中の
悪魔が
火花を散らしながら顔をだす
思い通りになんて
絶対にさせるもんか
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
指先の合図には
気がつかないで
もしも 気がついても
気がついても うなづかないで
通り過ぎた アドレサンス(思春期)
もう 掴むことすら出来ないのなら
見知らぬ現在(いま)をも
なくさないよう
気をつけて
指先の合図には
気がつかないで
ぼくが 悲しむから
振り向かないで