| 詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
空が笑ったら迎えにきて
そう言って
きみは去っていった
わかった
とぼくは言った
ぼくは
今もあの時のあの場所に立ち
一歩も踏み出せないまま
シャボン玉をとばしている
空のせいではない
雲ならいつも笑っているし
風ならいつも笑っている
太陽はときどき 泣くが
それはそうとして
空のせいではない
空が笑ったら
ってきみは言ったけど
それがどういうことなのか
ぼくには
てんで わかんないんだよ
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遠い空の下で
今まさに起こっている出来事が
メディアから流れてくる
それに耳をかたむけすらするが
心までは かたむけてはいない
と、いうところだろう
おそらく大多数の人々が
すべてがいい方向に向かうといいけど。
そんなふうに考えながらも
魚を焼いた後の
焦げ付いたフライパンを洗うことに
僕はいっぱいいっぱいになっている
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何も考えずにだらだらと過ごそう
もう 何も
カーペットの端っこが折れていても
直すのやめよう
キッチンの床に水滴が飛んでいても
ぬぐわないでそのまま
部屋の隅にもしかして
わたぼこりとか発見するかもしれない
けれども 放っておこう
誰かからの電話も出ない
誰からかなんて考えないでいよう
ソファの上で寝転んだまま
立ち上がることさえ 躊躇しよう
そうやってだらだらと過ごそう
完ぺき主義が
邪魔しようと必死だけれど
なにもかも
いっぱい 考えすぎて
なにもかも
失ってしまったことのある
ぼくだから
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はらぺこなぼく達は
いつも何かを食べている
それはご飯粒に限らない
時にメディアから流れ出る
時に2軒隣のスピーカー
はらぺこなぼく達は
道端の石を拾い
それを 空に飛ばしては
また 拾う
いつか金貨になることを祈って
はらぺこなぼく達は
はらぺこなくせに 好き嫌いが多い
それは メインディッシュに限らない
時に自分に向けて発せられる侮辱
時に誰かのサヨナラという言葉
はらぺこなぼく達は
それでも いつか
お腹いっぱいになるのだろうか
物語では
はらぺこなあおむしは
最後はちょうちょに大変身をとげたが
はらぺこなぼく達は
いったい何に変身し得るだろうか
はらぺこなぼく達の
はらぺこな未来
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きみは ぼくの将来を考えて
サヨナラと言ったみたいだけど
そんなのは
まったくもって本末転倒だね
ぼくの将来は
きみと一緒にいるってのが
大前提だってこと
知らなかったとは 言わせないよ
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「ラムネ買って」
「チョコレート欲しい」
そう言ってねだる子供達に
困り果ててなお笑顔の母親たち
あのころ
欲しいモノといえば
せいぜい駄菓子屋のおばちゃんに
100円玉ひとつ渡したら
山ほど買えるような
そんなものばかりだった
いつからだったろう
100円玉を渡す相手を
神様 に変えたのは
ぼくの欲しいモノも
スーパーの棚に
ラムネやチョコレートと肩を並べて
陳列されていたなら
こんなにも 苦しまずにすむだろうに
欲しいモノがなんなのか
それすらも忘れ果て
そればかり考えて過ごす
ある日
神様でさえ
かなえられないことがあるのだ、と
空に貼られた
特売のチラシで
知ってしまった
| 詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
どれだけあせってみても
一日が25時間になるわけでもなく
夜は 確実に
手を引いて 朝を連れてくる
起き抜けにのぞいた鏡には
昨日と同じぼくがいる
けれど
今日という日は 決して
昨日と同じ一日では ない
そして
この今日という一日の先には
まちがいなく 明日が待ち合わせしている
あわてずゆっくり歩けばいいよ
今日を たしかに生きておいで と
缶コーヒーなんて 飲みながら
ぼくたちは いつも
明日に遅刻する
明日は 常に 待ちぼうけだ
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最近 ちっともうまくいかない
いいことなんて これっぽっちもない
パソコン教室で知り合ったあの子からは
ぼくが送信したメールの
誤字脱字を指摘した返信がきたけど
それからまたメールを送ったら
それっきり。
英会話教室で知り合ったあの子とは
夢の海外生活についてさんざ語り合ったけど
1ヶ月したら
さっさと一人で留学に行っちゃった
手紙ぐらいくれるかな
ぼくの住所も知らないけどね。
あまりにも ぱっとしない
ぼくの毎日をうらんで
どうか どうか と
お月さんに毎晩お願いしてるんだけど
ぼくがあまりにお月さんにばかり頼むので
小惑星に住む性悪な宇宙人たちが
徒党を組んで嫌がらせをしているとしか
思えない
お月さん なんとかしてくれないか
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昔の彼女にもらった
シベリアンハスキーのぬいぐるみに
つい なまえをつけちゃったんだよ
そのせいで
今もそれは ぼくの実家で生きている
そんな事情は知らない
ぼくの家族に守られれながら
ピアノの上に座っている
昔の彼女の何もかもを
いとも簡単に処分できたのに
シベリアンハスキーだけは
生きつづけてるんだ
それから ぼくは
ヒト以外には
なまえで呼ぶことは やめた
すべてのものを
客観的に
遠巻きに見守る決心で
だから ぼくは
心底 ぞっとしたんだ
今 ぼくの部屋に
たったひとつあるぬいぐるみを
きみが 手にとって
「モモちゃん」なんて呼んだときにはね
「くま」にしとけよ
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ワケもなく泣けてきた
ワケもなく泣けてきた
と、言ったのはどこか嘘で
きっと なにかあったのだ
ぼくがそれを認識していないにしても
ドラッグストアでもらった風船が
靴のひもを直そうと
かがんだすきに 逃げていった
ぼくの指をするりと抜けて
この感覚
どこかで たしか
この するりと抜けていく感じ
なにか 大切なものが
大切なものならば
ぐっと手に力を入れて
決してはなしてはいけないよ と
ずっと昔に大人たちが教えてくれたのに
そのとき教えてくれた大人たちも
きっと 数え切れないくらい
大切なものを失っていたのだろう
そして そのたんびに
つぶやいたに違いない
ワケもなく泣けてくる と
こんちくしょうな涙を流しては
そんなことを一瞬にして
考えながら
ワケもなく泣くぼく
ワケもなく 泣くぼく