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望月 ゆきの部屋


[221] 六月
詩人:望月 ゆき [投票][編集]

ずっと、昔。

雨降りが続くと 
どこの家も
軒下に テルテル坊主が
ぶらさがっていた
あの頃。


昇降口から振り返った校庭は
ところどころに
コーヒー牛乳の水溜りで
少しだけ おいしそう

上履きの裏底が
なぜだか濡れて
足跡のついた階段を
一歩ずつ 踏みしめる

号令がかかって
着席すると
黒板の前の女の先生は
うねった前髪をこっそり直したりする


雨の日の休み時間は
色とりどりの輪っかをくっつけたものを
宙に放ってはつかみ
つかんでは放って 
遊んだ。

やがて
その色とりどりの輪っかの遊びは
学校で禁止になったけれど
なぜ禁止になったのか
今となっては 思い出せない


雨の日の学校は
図書室からインクの匂いがこぼれて
満ち満ちている
教室は
シャープペンシルの芯の匂いが
それに混じっていた


雨の日のぼくらは
髪も 肌も
なにもかもが
湿気ていて

ちょっとしたことで
泣いたり
鼻をかんだり
したので

ポケットの中、
いつもはあまり出番のない
折りたたまれたちり紙が
大活躍していた。

2004/06/08 (Tue)

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