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[86026] 柳都長屋の秋、茜色。
詩人:松尾 優月 [投票][編集]

茜日差しの風に消えていく羽根、透きとおる空気

柳都長屋の白壁に痕跡はまだ、残っている。


(微漣は鳴り、斜日の浜)

足首辺りに、冷たさ。

斜日の浜から、はしゃぐように浸かる。

茜、沈めたい。その、癖の強い前髪を、童顔した夏を。

左指達が、後ろ首をひとつ。行動にした白い美漣を掴む。

茜、もがきもせずに、受け入れている。



涙を隠すように海、声を消すように鳴る。

何故、ほほえんでいるのだろうか、受け入れたか。



斜日が伸ばした影、と、
きらりら、の微漣。

染まり暮れる、心。我に返り、抱きしめた。



(縁日、約束無しに架けた橋)

小路つたいに、独り白壁見つめ縁日の屋根を避ける。

茎を折れば、ポン、ポン。と鳴る草を口に含み

苦く、酸味がかった、舌先を噛んでしまう。



浴衣、簪、秋の中。距離を、

銀色した横笛を架線下での、枯葉。



喧騒を澄ませることの出来ぬ笛、俺、背おいながら。

夜の人を救うために、音域をさしのべ、

誰かしらに向け、縁を結びたい。



風の音、架け橋、お隣同士。

向こう、覚えのある、顔。



欠けた下駄で刻む石畳。知らぬふりの白壁。



茜、つかまえた。つかまえてしまった。掴んだ襟先。

茜、振り払い、羽ばたき、飛べぬまま消えていく。



(長屋敷の簪、秋の風)

そら、高くあり、簪、とんでいる。

飛来して留まった、右指先を軽くゆらら、茜。

傾げて、微笑む悪戯な繋がりを放す前の、茜。



秋草を見つめていた。いつだって、危なっかしい

立ち振る舞いが、蜻蛉のようで、飛び立ってもまた飛来する。

ゆっくりと、ゆっくりと、風と石畳の白壁へ寄り添い、

ちがう、ちがうと、この季節を憾み、

別離を重い、のままに、傷つけてほしい。



忘れないようにと、切られた、右小指。左てのひら。



柳都長屋、舞妓が歩く。過去。

秋の風が、門構えを、叩いている。



銀の笛の、
奏でる指先は、その拍子にのせて、

あなたとの、すべてを
取り囲んでいた、すべてを

秋に還す。 

2006/09/19

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