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朱雀の部屋  〜 新着順表示 〜


[14] 青また碧く
詩人:朱雀 [投票][編集]

 
底(そこり)埋もれた徒花(あだばな)を

渇いた心で 追い次(すが)い

皸裂(きれつ)の隙より沁み渡る

雲際に伏す 海天藍


花梅花皮(はなかいらぎ)に魅せられて

まにまに揺れる 侘戯は

ただ悪戯に輪を描いて

再び底(そこり)に掻い潜む


透けた虚白を埋め尽くし

牢籠の淵まで青また碧く

2008/10/13 (Mon)

[13] ヘルメスの月
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音もなく

無窮の果ては闇に落ち

虚空の下で

貪婪(どんらん)な渇きは癒えず


玲瓏たる

銀の雫に月は盈ち

秤の上で

静謐な焔(ほむら)を煽る


魂(たま)が振れ

産霊(むすひ)は解(ほど)け 月を欠き

器を返し

潺湲(せんかん)と滴る水銀


海(あま)は凪ぎ

底方(そこい)に宿るあらたまは

昇華を成して

悠然と朱に染め上がる



――瓏銀の水面(みなも)に惑うエトランゼ

       バーミリオンの月はかくれて――

2008/10/11 (Sat)

[12] 先夜のほどろ
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後れ毛 梳くうて そっぽ向き

微かに震える伏せ睫毛
 
「辛くはないの?」と、宵の月


若やる胸に絡ませた

好きと嫌いの綴れ織り

先夜の淵に咲く花を

見ては見ぬふり 気が揉める


不意にそぼ降る涙雨

雨音(あまね)に混じる透声に

「また会えるの?」と、霽の月


濡れて濡れて泣き濡れて

ぽつんと穿(う)げた胸の奥

先夜の真星(まぼし)に散る花の

儚き影が いと悲し


知らずに漏れた 溜息が

足元(あもと)に奔り 青鈍の海

「まだ恋しいの?」と、名残月


凛と結んだ桜桃(くちびる)の

かくのみ故に 恋ひやわたらむ

先夜の果(はて)に舞う花の

物狂おしい あで姿

2008/10/11 (Sat)

[11] 空の色が青いのは
詩人:朱雀 [投票][編集]


空の色が青いのは 一体 如何なる所以でしょう?

「それはつまり

『レイリー散乱』なる現象が大気の向うで忙しくおこり

7つの色の可視光のうち最も多く地上に着くのが

青い光という所為なのだよ」


ほつれた糸をツイとひっぱり

見過ごすには大きすぎる穴の空いたポケットに

無理矢理右手を突っ込んで 物知り博士は言うのです


だけども博士

見上げた空が青いというだけで どうして心は晴れるのでしょう?

こごり雲に覆われた鈍い空が長く続くと

青い空が恋しくなるのは果たしてどういう訳でしょう?

例えば空が黄色でも同じ思いになるのでしょうか?


「いやはや それは科学ではなく・・・」

皺くちゃになったハンカチで萎びた顔を拭きながら 

博士は扉を閉めました

遠くて見えない光の事は分るのに?


「それが浪漫というものなんだよ」

売れない詩人が謳うように言うのです

青い空を書けもしないのに


「心を映す鏡ということさ」

似てない似顔絵描きが絵の具に塗(まみ)れて言うのです

青い空を描けもしないのに 


空の色が青いのは 

「レイリー散乱」とやらが浪漫を見せて心を映してくれるから・・・

ひとまずそれで良しとしましょう


それなら

空の色が青いのと海の色が青いのは

一体 如何なる由縁でしょう?

2008/10/11 (Sat)

[10] 戯け話
詩人:朱雀 [投票][編集]

爽(さや)けし小山の風樹の頂(いただき)

風見のカラスが見遣る先 

光りほのめく草の原

ひとり ほとほと歩きます


しばし進めば分かれ道

九尾の狐が取り澄まし

物知り顔で尋ねます


『愚か者なら右の道

虚(うつ)け者ならその左

ぬしは孰(いず)れを選り取るや?』


別に当てなど無いゆえに

気の向くままに右左

ここで頭を搾るなど

ゆめ更更に思わねど

気色ばむ目に煽られて

ついぞ歩みを進めた拍子 


―― 旋毛曲(つむじまがり)は

いずれ どのみち立ち戻る ――


乾いた笑いに掻き消され

もと居た小山の草の蔭 

夢に夢見る

逢魔が時の夕惑(ゆうまどい)

2008/10/09 (Thu)

[9] 金魚鉢
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赤いおととが ひらひらと

右に左に身をくねり

赤いおべべは誰のため

水に弾けて凛と舞う


するりと冷たい玻璃(はり)のなか

くるりと廻って裏返し

泡(あぶく)がひとぉつ空の海


丸く歪な現当(げんとう)が

さても道理をわきまえて

丸く歪な目に映える


赤いおととが ひらひらと

恰も伎賊(きぞ)より舞い戻る

2008/10/09 (Thu)

[8] 水遊(みずあそび)
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逃げ水

恋水

こほり水

胸に刃(やいば)を突き立てて

赤い血潮を ざんざと流し

寄瓮(るべ)に零れた深情け


今宵の月は殊更 真白(ましろ)

ただ水底に さ揺らいで

憂(うい)にまみれた この手では

また懊悩(おうのう)を

掬(きく)すまで ・・・


逃げ水

恋水

貰い水

刃(やいば)の先に花が散り

赤丹の秀(ほ)にも紛う面(おもて)を

彼(か)の様 綺麗と言ひてむや

2008/10/09 (Thu)

[7] 竹想花伝
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翠(すい)の竹生(たかふ)に月夜影

稲穂に似たる紫は 二目と見れぬ稀有な花

最期の時を飾らんと今を盛りと咲き満つる


風も無き夜に竹葉(たかは)が騒ぎ 月花に浮ぶ舞姿 

『汝 仕舞のこの際(きわ)に何を覓(ま)ぎて此処に立つ』

葉音の影の問声(といごえ)に

答(いら)え代わりの移舞(うつりまい)

虚仮(こけ)の一心 仕似(しに)せるほどに

透影(すきかげ)の中で孛(ひろこ)へり


和魂(にきたま)宿らせ女(おな)となり

鬼を宿らせ鬼魅(きみ)となる

神に 修羅に 狂人(たぶれびと)にも成り変り

舞いて 舞いて 花を知り 

偏(ひとえ)に舞いて 花を失(う)し

やがて誠の花と成る


枯れ逝く時分に見継ぐ幽玄

遺す種子(たなご)に遺念を委ね

有心を払い無心に還る

尽未来際(じんみらいさい)嵩を増し

長(たけ)を長じて 花伝となりぬ


2008/10/09 (Thu)

[6] 樊籠
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寂寞(じゃくまく)の枢(とぼそ)で 

縮こまった躯(むくろ)を抱(いだ)く

哀れなるかな その姿は

卑しき傍生(ぼうしょう)なり


痩せた輪郭を坤輿(こんよ)にさらし

転げた鞄の口から渺然(びょうぜん)と宙が洩れ

惜陰の間もなく やがて辺りを埋め尽くすのは

茫漠たる無窮

広漠たる静寂(しじま)

渺茫たる孤独


喪明の羊飼いは無明の闇をさ迷い

生死長夜の夢に溺るる

疇昔(ちゅうせき)に紛れた風袋から

無常の風は吹き止まず

雲霓(うんげい)の望みは泡影(ほうよう)と成れど

合浦(ごうほ)の玉には成れはせぬ

2008/10/07 (Tue)

[5] 悠遠
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ビョウと突き刺す風越しに

ふと 目に止まる時のうねりが

凄凄とした瞑色に身悶え―――


弥立(いよだ)つ躰と裏腹に

凝らした眸に赫(かがよ)う影は

象牙の塔に姿を変えて

『此処へおいで』と甘言を吐く


喜懼(きく)に揺れる心裡を探り

僅かに遅れた足の運びを

其奴が見過ごす筈はなく・・・

『お前はいつもそうだね』と

侮蔑混じりに ただもう一度

ビョウと響動(とよ)もし掻き消える


其の名は闇の詠うたい

識閾(しきいき)に立つ我を哀れみ

ただ気紛れに姿を見せる

いつか わたしはお前のもとに

辿りつく日が来るのだろうか?

2008/10/07 (Tue)
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