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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[739] 
詩人:千波 一也 [投票][編集]



あのひとの喜びを

多分に私はわかっているから

悲しませるすべも

知っている

おそらく


このまましばらく冷まそうか

それともここらで

温めようか


私、怖いかも知れない


あの手

この手で

あのひとに

触れて、いたくて

ただそれだけなのに


愛しければ

愛しいほど

無邪気に殺しては

殺されてしまう

あのひとと

私とが


むずかしい嘘のために

ほんとが消えても

喜怒哀楽は

覆らない


私、めでたし

あのひと愛でつつ


微笑むために必要なのは

赤かも知れない

黒かも知れない


あやうい爪は何のため


未明の夢の鏡の中で

私はあたまに

角を見る


2007/01/05 (Fri)

[740] 毒虫
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開かれた窓に誘われて

毒を持つという虫が

飛んで入った


あわてて誰もが走り去る

入口のドアを

出口にかえて

みんな平等に

逃げてゆく


わたしは

一人ぼんやりと

歩み寄る、

窓辺


叱る声が後ろに聞こえた



疑うわけでも

信じるわけでもなく

この目にとまった

毒虫の色の鮮やかさに

誰もが避ける窓辺へ落ちた、

わたし


都合のいいセリフなら

いくらでもあるから

安易な確かめには

頼らなかった


頼れなかった、とも言える



やがて

音もなく毒虫は離れたけれど

そこに生まれた安堵の声は

ひとつの檻だと

わたしは思う



持ちすぎた色を

毒々しいと言いたげな

空からの拒絶を浴びながら


わたしはいつか

閉じられた、

もの


2007/01/05 (Fri)

[741] リボンと雪は
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リボンと雪はよく似ている


あこがれているのに

怖くもあって

ふっ、と

触れてみた瞬間からは

すばやく

とける


そこから色は不自由に

やわらかな不思議を

不純にさせる



リボンと雪は手を知らない


手のようなもの

目のような、

ひと


そういうものに詳しくなって

形はうつろう


いつわりを戒めるように

ひとつを創らない、

一途なむすびめ



リボンと雪はぼくから遠い


逆手にとればゆめだから

いついつまでもすくう、

うた


きみはどこまで離れてゆける

寄り添うことに

凍えるまえに


きみはどこからなくしてゆける

得るものごとに

つかれるまえに



リボンと雪は消えたりしない


課される荷物に

とまどいながらも


2007/01/05 (Fri)

[742] その後のあなた
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お久しぶりですね


似たような風に

互いに吹かれては

かならず達者で暮らせよと

別れ際には笑ったものですが


いまも

お変わりありませんか


いまでも変わってゆけますか



捨てきれない現実があって

わかっていながらも

ここは中途半端で

常に、

恥ずかしさの吹き溜まりです


ただし

呼吸はうまくなりました

それゆえ繰り返すのでしょうね

すべて、

報われないとしても

すべて



しつこい光にさよならを

しぶとい闇にも

さよならを


そう、

はじめから

答えはわかっていましたから


笑ってもらうなら

あなたのほかにはいない気がして


その後のあなたが気になりました



2007/01/05 (Fri)

[743] 漆黒
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かりそめをながく着て

寝所のすみに

けがれを

灯して


目をつぶるから

ほこりがつもる

目だけを頼れば

いしにつまずく



なぞるだけでは

かどが立つ、




わかつためには

わすれるためには

えがいて消して

久遠の、





燃える陽も燃えた月も

ひとをつれては

燃やされて

ゆく


雨が

ひたすらに

顔を隠すわけは

かばうべき布のため



一枚のための一枚として

さくらの御名は

舞い降りて、

散る


土へとかえりゆく途が

ひとつの樹なら

枯葉のかげも

あたたかい



塗り込むすべは白のまま

うがつうつつに

渦巻くしるべ、

漆黒をさす

2007/01/06 (Sat)

[744] 篝火
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鈴のねむりを風はまもり



ときは

ときさえ

だまして過ぎて

いたずらに揺れて、

きまぐれに泣いて、


鳴らされている

はかない鏡



雨を飲み干すことで

おぼえ続けてきたものを

ほのおがゆるすはずもない


たやすいことほど

むずかしいものなら

ひとつも為しえず果ててしまう




野原に舟を浮かべたら

たじろぐ弓矢に

さかずきを


こおれる川に月夜を沈めて

戸惑うけものを

かんむりに




髪は

髪からうまれて

もっとも髪をうとむ爪


それは、呼び続ける罠



罪なればこそ暗闇は満ちて

やがては笑みに

晴れ間が集う

あやしくも



したがうあかりを

まずは目に


ふさがぬうちなら

耳にも手にも

口先にも


2007/01/07 (Sun)

[745] 結晶
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輝いていたとき、を

かぞえることで

くすみますか

くすくす、





泥にまみれた足もとに

わらう石ころ

紡がれる、

そら


届かないそらだから

甘えていたい、

背中は

青く



おぼえてゆくのは

忘れてしまう音ばかり


つばさも雪も

夕焼けも

朝露も

いつもいつも綺麗です、


失うことは優しい波間に

うずもれてなお、

冷たく醒めて


憂いのすみから古巣はかけます



こころあたりを引き裂くたびに

たとえば虹に恋いこがれ、

たやすく染まる橋です

今朝も


凛として、

刺されることを厭う針

夜はまだまだ月のものです



いざなううたは誰がため

行方もまぎれて

ここは遙かに


遙かに、こぼれて



2007/01/07 (Sun)

[746] 春秋
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隙間をあやすように

いたみのたぐいも

たぐり寄せる、

ゆび


からくりかも知れない、

そんなたとえのむなしさに

あらがうことを捨てたとしたら

だれかの日記を

風はめくるだろうか



通うこと、

ただそれだけが季節のしるし


あそびの裾はめぐる水


誘われてさらわれて

濡らされて

漂わせ



いやしはいつも静かにくずれる

ゆるやかにちぎれる、

約束のとき


果実のための果実はどこに



もてあそばれる鉄を

ささえる皮膚は

あまりに脆く

涙から、

なみだから遠い国は

見つからない

それでいい



弔いははじめから

枯れてしまうなかに在るのだろう


見渡せば、

よくよくながれて

すべてはすべてを待ち

焦がれている


2007/01/07 (Sun)

[747] 笹舟
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折り目もただしくつゆにのせ

負われ、

終われぬ

いのりをはこべ



いずれの岸辺がふるさとか


一途なさわぎに

まみれて

むやみ、

それゆえ波間は

あかるく

くらく、

砕けるいのちは

ひたすらに

あお、


いつか奏でた

うつくしい響きの

いつまでもなつかしい、あお



かえり着きながらも

すべり落ちることを

降りしきる、三日月



みちをもとめることだけが

みちではないような、

昔がきこえる

かぜの庭


ささやきはつめたい



飾られたすえの飾りではなく

ただまっすぐに

願いにまわれ

くるくる、





こまやかに鳴るきびしさに

覚めて、

冷めても

いのりをはこべ


さなかの、清流


2007/01/07 (Sun)

[748] 雪月花
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まあるい卵にうさぎの眠り

たゆたう袖から

虎のまなざし


いつかは還る最果ての灯へ

のぼる姿を

手から

手に



浮かべた舟は遠ざけて

くれない川面に

こもりうた


幾度と寄せてもうしろ髪



無垢なるくすりはあめの糸

ときの刻みはささやかな水

野に咲く憂いは

うらがわの円

わかれみち


雪月花

ひらりと舞わせば無人の島ぞ

匂いをたどりて

扇のかさなり


おもいでの背は降り積もる、坂



うすくれないに射抜かれる影

みどりの波から繰りかえす羽

まばゆい黒をさすらいながら

深紅を迎えるあかつきのまど


満ちゆく風は洞穴を縫い

けがれた着物を

とおされて

去る


ひかりの傾斜はなおも険しく



おだやかな陽にまもられる庭

残されたものこそ

ぬくもりを云う

さよならと

笑み





2007/01/07 (Sun)
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