詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
手のひらを
つかのまだけ
離れてみせる、と
誇らしそうに安らいで
黒髪すやすや
あなたの隣
小鳥の言葉は
拾ってきます
かけらに
なり果てる手前の
懐かしい小枝など
遠慮がちに
十一月の
曇り窓には清い川
恥じらいも、強がりも
ひとつになって
したたって
船旅はやわらかです
すぐにも翻る
颯爽とした陰と親しめば
雪は上手に
乾くのでしょう
肩にも髪にもさわらずに
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のぞまれない悲しみは
きっとある
のぞまれない優しさも
きっとある
ひとつ残らず
のぞまれなくても
わたしはここに
立っている
言えず終いの
いたわりがある
言えず終いの
いつわりもある
言えず終いが
わたしのくせなら
つぎこそ言おう、と
思いはつづく
空には流星
知られていても
知られなくても
海には汽船
聴かれていても
聴かれなくても
さびしい明日はきっと来る
まばゆい明日もきっと来る
わたしが
わたしを辞めないかぎり
明日の意味はわずかに
重い
叶えられない温もりが
ある
叶ってしまう冷たさも
ある
まちがえた数ばかりが
わたしを為さぬよう
わたしは呼吸を
かさねてる
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つぼみのままで
いたいなら、
それも花だと
そよぎましょう
まだとけきらない
雪の小村も
あなたが
春だと云うならば
うなずきましょう
わたしは細く
暗く、
おもたい横顔も
あかるい星の
通りみち
わたしは黙って
見つめていましょう
ねがいを
きっと、託しましょう
やさしさだけが
取柄だ、と
いついつまでも
わらっていましょう
つよさ、の意味が
訪ねてくるまで
ふれた指から
はじまる笑みなら、
そこに
言葉があるのでしょう
読めないものも
聴けないものも
迎える日々が
愛、なのでしょう
とまったまま、で
いたいなら
それも風だと
うたいましょう
あなたの背中で
憩いましょう
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おそろしいものに
心あたった朝、
月は
黙って
灰色でした
わたしの言葉は
薪のようです
誰かの夜を
あたためうるならば、と
みえない炎を
見つめかねながら
よけいに
沈黙できず
疲れ果てた羽のような
雲のむこうに、
わたしを待たない
時計があります
手をかざし
よけいな光を
さえぎるけれど
いまだに
銀です
かろうじて。
やさしいクリームの
裏側は、海
自覚の深い
禁忌の海
つながれた総ては
二度と解かれません
みんな、
すてきな雨粒ですね
波にあらわれながら
孤独に帰りますね
みんな
闇を仰いだ
幾度めかのまよいに、
うたは
すっかり
染み付きました
C.Q.
C.Q.
わたしですか
ここは
わたしですね
そこも
凍てつくものたちに
したわれた朝、
あらたな破片が
澄んでいました
嘘もちぎりも
凌駕して
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まじないめいた
隙間がすきです
ほほえみきれない
ほの明るさも
あしたはぼくを
待ちますか
おんなじ思いの
きみですか
危ういそぶりの
ゆるしがすきです
疎遠すぎない
よこがおも
名前はなくても
抱きしめられます
形がなくても
追いかけられます
約束は
ぼくを向きますか
きみの望みが
かさなるならば
この指とまれ、背中から
この指とまれ、音もなく
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だれに
味方をするでもなく
秋はしずかに燃えている
わたしが
ひとを敵視するのは
燃えようとする
哀しい加速
はなはだ容易い
弱さの
露呈
いっそ
水になれたら
けなげだけれど
わたしは
凍りとがるより
能がない
まして
小石のように
一人で空を仰げはしない
きっと
すぐにも駆けだして
ささいな拍子でつまずくのだろう
風の底から
空をおもいだすのが
やっとだろう
語り尽くされても
なお絢爛豪華な
緋のほとり
わたしはちいさく
くすぶっている
余されるほどでもない
身勝手さで
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なにかが見えなくなりそうで
やさしいきつねは
雨をきらう
なにかが聞こえはしないか、と
やさしいきつねは
雨をしたう
その
ときどきの気持ちにまけて
やさしいきつねは
雨をいろどる
今夜のねどこと
ごちそうをうたいながら
やさしいきつねは
雨をみる
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歩き疲れたひとの背中に
時計がうっすら
見えました
あからさまな
時刻を告げない時計です
それゆえわたしは
さびしくなって
空の高さに
透ける
だけ
か細い音、に
すがるともなく
すべてをまかせて
ほんの些細な嘘さえも
守れもせずに
願うのです
わらわれそうな清浄を
願うのです
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ひとりで仰げば尚更に
山野の月はきれいです
涙は
雲居をわたる舟
契りは
雲居をてらす舟
言葉が透ける霧の夜は
山野の月がきれいです
あまねく水面は
古巣です
あまねく種火は
郷里です
垣根をなくした風のふる
山野の月はきれいです