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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1149] 傘のない街
詩人:千波 一也 [投票][編集]


街は

かわらず

急ぎ足だから

にわか雨にも動じない

チラ、と

暗く続いた空をみて

街は

かわらず

明かりを灯しはじめる

明かりは

誰のためか、と

問われたならば

しばしの思案のあとで

誰もがさびしく

答えるだろう


バス停に濡れる

少女のための

傘は

どこにも

見つからない


待ち人のない

老婆のための

傘は

どこにも

見つからない


街を

わたる人たちの

行き先などを

街は

いちいち

気に掛けない

向かう人にも

帰る人にも

街は

街であるほかの

すべを持たない


夢に

たじろぐ少年を

たすける傘は

どこにも

ない


荷を

確かめる老爺の肩に

寄り添う傘は

どこにも

ない



街は

かわらず

暗黙の一方通行だから

にわか雨にも

動じない

流れる方向が乱れたら

街の

弱みが

さらされるから

街は

つとめて

干渉しない


軋む隙間を

あちらこちらに

許すしかなくても

街は

なにも

持たずに

済むように

街ゆく人の一つ一つに

なにか

易しからぬ

言葉を放ち続ける



2012/08/10 (Fri)

[1148] うねり
詩人:千波 一也 [投票][編集]


言葉はわたしを

待たないし

わたしもそれを

望んじゃいない


なにごとも

自然であれ、と

よかれと願う

ただ

わたしたちはその判断に

自信がもてなくて

波間や雲に

尋ねたり

する


この世には

識別の難しいことが

たくさんあるから、

聴けない言葉は

五万とある

きっと

言葉を抱かぬものはない

事象だろうと

造作だろうと

皆それぞれに

言葉を

抱いている


わからない、と

聞こえるように言えたなら

小さい声でも

大きい声でも

聞こえるように言えたなら

それは

立派な勇気でしょうね

否める余地のない

立派な勇気でしょうね


言葉は

あいにく

わたしを待たない

当然わたしも

望んじゃいない

ねがいや

祈りがあるなら、それは

言葉に満たない

どうしようもない

言葉、

なのでしょう

にわかには

信じられなくても

無数の

うねりの

海原みたいに




2012/08/09 (Thu)

[1147] トライアングル
詩人:千波 一也 [投票][編集]


あとは

お任せいたします、

上手にもたれて

サボりましょ



問うも問わぬも自由なら

いずれも選ばぬ

すべもある



お口の悪いひとがいて

腰の重たいひとがいて

手先の器用なひとがいて

本質だけ見るひとがいて

だから

去りましょ、

場違いならば



夢には昔

名前があった

思い出せたら快いけど

思い出さぬが花もある

すべからく

迎えるものは

素敵でありたい



だから、時々

お任せいたします

一から百まで数える間に

まばたきくらいは

しますでしょ

よそ見をしたりも

しますでしょ

だったら、

ゆずり合えますね



時間は

まがいの一直線

角が

来たなら

交代しましょ


互い違いに

よき知恵





2012/08/09 (Thu)

[1146] サンプル
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よく視ていなさい

憎しみを

あれは

にわかに

輪をなします

よく視ていなさい

憎しみの輪を

外れた者が

行く先を

そこに

あなたはいましたか

それとも綺麗な

輪でしたか



2012/08/09 (Thu)

[1145] 祝婚歌
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銀河のほとりの

ちいさな一途



ひとつ

ふたつ、と

確かめあうのは

些細なことに

すがるぬくもり




もう、

離ればなれには

なれないや

っていう告白は

あきらめだろうか

いやいや、ちがうね

でも、

なんだろね





ほんとの謎は

ふところ広く

ほんとの答を

押しつけない



波打ち際の

ちいさなひかりは

だれかひとりの

手柄では

なく

集う

しるべの

豊かなものさし



少ない色で

描かれる絵はあっても

真実

それが

正しいわけでも

誤りなわけでもない



ふたりを

語るすべがあるなら、

一途、とひとこと

互いのすきまに

響けば良い





2012/08/09 (Thu)

[1144] 
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きみの涙は

あたたかかったから、

時間はけっして

冷たくなんか

ないね



願いも祈りも

こわれもの

そうでなければ

未来のすべては意味をうしなう



昨日も今日も

探しもの

とべないつばさを

守るため



きみの

笑顔は揺れていたから、


時間はけっして

停められない





隠せるものは

ひとつだけ、だよ

ちいさく

まあるく

ころり、ぽかり、と





2012/08/09 (Thu)

[1143] 整列
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列が

乱れますから

前へならいなさい、

切なさよ


ラインをよく見て

その境を越えないように

たたずみなさい、

恋しさよ


下を

向きすぎてはなりません

他のものたちと同様に

顔を見せなさい、

寂しさよ


己の背丈は

正しくそこに位置づくか

比べに比べて

納得なさい、

苦しみよ


隣のものや

前後のものに

ぶつからないか

しずかにひとりで

確かめなさい、

愛しさよ


よそ見をせずに

その場が己の居場所かどうか

考え続けなさい、

喜びよ



2012/08/09 (Thu)

[1142] 記憶
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さくらの歌が

眠りにつくころ

駅がわたしを呼びにくる


路線図上の

きれいな文字は

すっかり古く、穏やかで

長く対峙することが

むずかしい



線路脇には

意味のあるものたちが

忘れ去られている


押しつけがましい意味の外側で

満ち足りている



澄んだ空をわたる

ひとすじの雲


こころに寄り添う

言葉があるならば

まっしろ、なのだろう


わたしはまだ

透明にあこがれている



春の音はみな

軋んでいる


頼りない命が

かけがえのない命が

ひとつになりたくて

ひとつになれずにいる



さくらの歌が

ふたたび目を覚ましたら

わたしは駅を忘れるだろう


行き先も確かめず

しらない電車に乗るだろう



線路脇はいま、

ひかりと風のまつりのさなか


懐かしいわたしの幾つかが

わたしにそれを

教えてくれる




2012/08/09 (Thu)

[1141] 力の限り
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風に

正義を負わせるな

風に

味方を尋ねるな


雨に

慈悲など求めるな

雨に

素顔を尋ねるな


真っすぐに立て

力の限り

言い訳の一切を

支えにかえて

力の限り



月に

孤独を負わせるな

月に

故郷を尋ねるな


波に

擁護を求めるな

波に

行方を尋ねるな


真っすぐに在れ

力の限り

迷いや憂いの一切を

支えにかえて

力の限り



空に

自由を負わせるな

空に

義理など尋ねるな


星に

受容を求めるな

星に

昔を尋ねるな


真っすぐに立て

力の限り

望みも闇も

支えにかえて

力の限り





2012/08/09 (Thu)

[1140] 蜃気楼
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蜃気楼、と名のつく国へ

ゆびさきに力を込めて

風をおくる


かろやかに静止する

すべてのリズムは雨に流れて

つい、空を見上げる


何もないということが

両手のうえに確かにあって、

乾かぬように私は尚更

遠くを見つめる


約束、と名のつく偽りごとに

やさしい舟が今宵も浮かんで

誰かが何かが

近くなる


確かめるすべなら、もう

あしたの向こうへ発ったから

ちいさな一途に

ひとり、笑む



2012/08/09 (Thu)
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