詩人:地獄椅子 | [投票][得票][編集] |
電車は下り。
目的地は不明。
都会の喧騒から離れて、一人を旅する。
向かいに座るカップルがイチャついて、癪に触る。
そう言えば買い忘れてた。
さっきの駅の幕の内弁当、旨いんだった。
今日ほど青空が、悲しい日はないかもしれない。
煙草がハイペースで減ってゆく。
全身で幸福を表現する恋人達は、二人の世界から外は見えないらしい。
苛立ちと焦燥。
硬いシートに肩が凝る。
自棄糞と怯え。
孤独の終着駅へ、人生という名のトレインは進む。
流れに逆らうように、時へ反抗するように。
決められたレールのない、不確かな旅。
ああこのまま、銀河へ昇りたい。
闇に誘われ、虚空の果てへ。
宇宙の神秘的な謎の核心に触れたい。
どこまで行っても悲しみは付き纏う。
いつになったら、こいつと上手に付き合えるのか。
溺れる自我、妖しい未知に彷徨って。
きっとこのまま行っても、知らない街へ辿り着くだけだ。
まるで胎内にいるかのような心地好い揺らぎに任せて、微睡む。
車窓の外の景色には、もはや俺の知るものはない。
俺を知る者はいない。
伸びる未来。
長く続くレール。
俺が受け入れる数少ない優しさ。
ありのままでありたいという願い。
運んでくれ、トレイン。
もしも闇に包まれた時、俺の心が息継ぎできる場所へ。
何もかも時の流れが、せめぎ合いながら、矛盾を相克しようとして藻掻いている。
ギシギシと過剰な負担にひしめき合いながら。
軋みながら、歪みながら。
まるでこのタイヤとレールの摩擦のように熱を孕みながら。
不安、憎悪、憤怒、孤独、甘え、弱さ、嫉妬、猜疑、寂寥、悲哀、苦痛、憂欝、欲望・・・
数えきれない駅を過ぎ、両の腕に抱えきれないほどの感情が永遠と刹那の狭間、俺の中の俺を活かしも殺しもする。
手招きするような未来へと、俺の意志を貫く。
暗くなるばかりだ。
だが光は差すだろう。
同じ列車に乗りながら、違う人生を歩む。
孤独と孤独。
上っ面だけじゃ、解らないよな。
もはや祈るような心境に近い。
暮れ泥む黄昏時。
ひたすら加速しながら。
黒い電車は残酷に走る。
車内の人々は何を思う?