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ああ…ごらん。人々が燃えていくよ。
まるでブロンズの彫像が溶けるように。
けれどその勢いは紙くずも同然だ!
「こっけいだナ。つまり無知は死に値する罪だということサ」
たくさんの人が業火に包まれているね。
燃え尽きていく体を振り回して。
「彼らは知っただけだよ。だがすでに手遅れってわけだ。なぜなら彼らは無知のまま生きてきたが、それぞれ、すでに足跡を残したからネ。真理に達した一冊の書物が人の世にこういう結果をもたらした」
まるで悔いる時も与えられていないようだ。
あっ、燃える母親につかまれて子供に火がうつった!
「んー…。それはつまり、あの子供はすでにこの世になれた者だということさ。贖罪(しょくざい)はすべからく与えられるべき者に与えられる」
ねえ、ごらんよ。あの人はぼくよりずいぶん無垢な顔をして、業火に…。
もしも、もっと後に気づく機会が与えられれば身をこがさずにすんだのかもしれない。
けれど平等に、時は『今』なんだね。
「文化だよ。人は誰しも真理を求めるものなのサ。いかに自分がソレにたどり着く道から外れてしまってもね。ちょうどたき火に蛾(ガ)が吸い寄せられていくのと似ている。…習性だ」
わかるよ。これはみんなが望んだ結果なんだ。
そしてこの『時』が来るのをぼくたちはみんな知っていた。
そしてぼくにも、きみにも、平等に犯したあやまちのつぐないは沸騰点を越えておとずれる。
手を…。
「いいよ。しょせんぼくたちは同罪だ。共に行こう」
きみが連れなら悪くないよ。
「光栄だな。だがぼくはきみのうめき声など聞きたくない。そのことはわかっていてくれ」
ぼくもさ。さあ、業火が足に届いたぞ。
「おそれるな。受け入れろ!」
わかっている。どうどうめぐりのばかし合いが終末を迎えるということだね。
「そう。そして始まりへ戻る」
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笑うのは苦手じゃない
悲しいときにも泣けないけれど
楽しくなくても笑えるから
母さん
頭ん中にあんたがいるよ
いまだにあんたの顔色を気にしている
怒らないだろうか 叱られないだろうか なんて
ミジメだけれど染みついているアイデンティティだ
なるべく関わらずにいたくて
電話はナンバーディスプレイだけれど
ときどき人から言われるんだ
「もっと気楽にやれよ」って
言葉の意味は納得なんだけど
どうすりゃいいのかわからないから上のウケはいい
だからいつもヘトヘトで帰ってくるけど
よく悪い夢で目を覚ますんだ
ほら 昔よく聞いたあんたの口癖を夢で聞くのさ
なあ おれは夢を馳せたことがあったろうか
あんたが気に入るようなもんじゃなくてもさ
こっそりとでも おれだけの
ただ思い出せないだけなんだろうか
近頃やけに疲れるんだ
仕事も友人関係も順調だけれど
あんたに相談することでもないんだけれど
なにかあるたびいちいちわからない
音楽を聴きながら音楽が欲しいと思うように
どういうふうに感じればいいのかいちいちわからなくてさ
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きみに花束を贈ろう
十九本はこれまでのきみを誇るために
一本のバラは来年のきみを讃えるために
信じりゃいいよ
二十歳になったきみは
これまでの十九年間のどの年よりも
素敵な一年をすごすに違いないんだ
生きるってエネルギーを生み出すことさ
なにをしても
なにをしていなくても
命の脈動は世界を感化している
感じないか?
世界には心地よいリズムが満ちあふれているよ
まるで悲しみを浄化するように
まるで痛みをそっとさするようにさ
素敵な出来事が起こらないわけなんかまるでないんだ
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きみに命をあげよう
死に急ぐきみに
ぼくからけずって
かけがえのないきみに
足りないのなら花をつんででも 集めてくるさ
心配なんかしなくていいぜ
いくらでもくれてやる
もう充分って言ったって まだ まだ まだ
きみは疲れてしまっただけなんだ
それってなにも もう永遠の絶望 ってわけじゃない
滑稽なほどきみに尽くしてやるよ
うんざりってほど守ってやる
「もう死にたいの!」 って言葉を数限りなく飲み込んでやる
あらがわれても どれほど辛辣な罵倒をくらっても
むせるくらいきつく抱きしめるんだ
腕の中で人は壊れないと知っているからさ
教えてくれたのはきみなんだぜ
切り傷のたえないきみの手首にいくらでもキスしてやる
汚れていると信じて疑わないきみの体をいくらでも火照らせてやる
出会ったことには意味があるよ
ぼくたちは二人で生きていける
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風を切る音は気持ちよかった
生まれつきおろかにできているおれは
透明なかごの中で
飼われているのが似合いね
ああ ただ生きていたのに
あの子が他の女の子とは別ものに見えるから
一人ではいられなくなってしまった
切なくて体が震えてしまいます
首筋がほてる
淋しさのあぎとに喰われ
内ももがもだえる
恥ずかしい
なんて だらしがないんだ
女の子に心を奪われるなんて
みっともないったらありゃしないよ
はじを感じることが防壁を瓦解させる
夜風が気持ちよく冷たい
ベランダの適度な接地感のなさ
それは三途の岸辺にも似ているようだな
じきに訪れる静寂に満ちた闇
そこから聞こえる淋しげないざない
音 左胸の メトロノームよりも不安定な
ガラスが砕けるよりも耳障りな ア ア 淋しい
ただあの子を想うことがみじめで
心音のやるせなさをせない
風を切る音は気持ちよかった
おれ以外全部置き去りにする音なんだ
その速度 生という束縛からの解放であり
死という幕の享受 そこへたどり着くための速度
安らぎと妥協の合致点
成功と冒険心を計る天秤
弱さと罪の融合性
生を受け止めうるものは死だけであるとするならば
想いを受け止めうるものとは?
あの子は気づいてさえもいないんだろう
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のぼるより速く沈んでいく螺旋階段をのぼりながら、
期待され続ける愛されたい愛されない子供は、
世の中を見下しながら、
ゆっくりと 乱れていく。
こっけいな覆面の下で困り果て、
青ざめながら笑っていました。
誰にも胸の中を知られたくなくて。
自分でさえ気づきたくないのだもの。
その、こっけいさ。
純粋培養のあやつり人形は褒められる要素がたっぷりです。
「元気なお子さんね」
「お行儀がいいわね」
「お母さん似かしら」
誇らしげな母さんに嬉しかった。
後でじゅうぶん褒めてもらえる気がして。
けれどもっともっと望まれるばかりで。
ああ もう今にも愛の枯渇に自我が崩れそうだね。
ナイフへの興味は世の中への嫉妬によるものだ。
けれどあこがれのナイフで切り裂きたいものはいったい?
誰かが誰かを愛するように、
自分が自分を愛せたらいいのに。
暗闇に巣くう魔物におびえているんだろ。
あやまちをおかしても安心して帰れる家がほしい。
今にも暴れ出しそうな魔物をなだめるだけで精一杯。
落ち込むゆとりさえ持てやしない。
けれど分かるだろ。
覚悟が道を切り開くということ。
糸を切り裂くナイフを胸にいだいているということ。
誇りに目覚めなければならないということ。
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怒らないといけない
もっと ちゃんと
我慢は美徳じゃないぜ
愛だとか許しで解決できることは上っ面だけ
大切なのは相手の好感度を上げることじゃない
嫌われないことじゃない
怒る素直さだよ
我慢して 怒りを抑圧していると窮屈な顔になってしまうぜ
我慢を重ねる生き方を頑張る必要なんてないよ
思い切り感情をはき出して
嫌われてしまったならそれまでだけれど
それって納得できる悲しみだろ?
怒りを押し殺して笑っていたのに
嫌われたり
わかってもらえなかったり
そういうのって救われないぜ
大切なのは感情を殺さないこと
そのうち自分を信じられなくなっちゃうぜ
吐き出しなよ
飲み込んでやるから
感情をむき出しにするサマはかっこいいものなのさ
かっこいい生き方をしな
幸せが似合うようになっていくぜ
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暗黒だ
太陽さえ輝かないブラックホールだ
何故なにもかもが思い通りにいかない歯がゆさと
大好きだったおもちゃをふと壊してみたことが
同日であったかと考えながら
なにもかも大嫌いだと苛立ったことを思い出し
自嘲的に困った
費やした日々は成長のあかし
伸びた手足と届かないものをあきらめる物分かり
カドのない正義に拍手さえできる協調性
ずいぶん年寄りだなと自分を叱責する気にもならない
チッチッチッチッと秒針がせかす
なにかしなくちゃ
息を吸って吐いている分だけなにか
息をしているだけでは足りないんだ
情熱したい
暗黒だ
太陽さえ輝かないブラックホールだ
もうじきおれはおれ自身から失われるよ
もしかしたらもういないかもな
雨は嫌いだ
出かけるのが億劫
傘をさすより雨に打たれて歩きたいけれど
服が濡れたら人目につくし
低気圧のせいで頭痛もひどいや
アア
いっそ盲目の鳥に産まれたかった
感性だけで空を飛ぶものに
大セールだ
おれのなにもかもをくれてやるぜ
『心売ります』
今にも空に押し潰されそうさ…
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ぼくは疾駆する
ぼくはもっと速く走る
ぼくはなにもかも落とし忘れていく
そしてもっと速く走る
どうして大切なものを胸に抱き続けられないのだろう
ぼくの手は冷たかった…?
暮らす街の違いよりもずっと遠い距離が
それは柿の木が実をつけるよりも長い時間で
有刺鉄線におおわれている
会いに行けないもどかしさ
君はこばむだろう?
水と油の比喩がぼくらには似合いさ
君は冷めてしまった
ぼくは業火となって行く当てもなく荒れるのだ
近寄るもの全てを焼き払う勢いで
ぼくは走る
かなうなら君の暮らす街へ
だが混沌へ転げ落ちているにすぎない
ぼくは自らを切り裂く凶器だ
ぼくはカール・ルイスだ
とめどもなく煮立つ怒り
だがそれは同時に氷よりも冷たい空だ
一億光年のかなたへ君を捜す
鳥に似た雲が空から先へ飛び立とうとしている
羽をくずす前に!
溶解手前のカッターナイフによってぼくは突き動く
早く 一分でも早く ぼくは補わなければならない
君のいなくなった空白を
空白が凝固しつつある溶炉の中の欠損を
だが君たりえるものなど君をおいてあるだろうか…
ぼくは疾駆しなければならない
ぼくはもっと速く走らなければならない
ぼくはなにもかも落とし忘れていかなければならない
そしてぼくはもっと速く走らなければならない
ぼくは君を忘れ
思い出の前後までをも忘れ
素晴らしく新しく
愛を探し始めたい
愛がなにかなんて分からないけれど
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やかましいな
アア 両手を耳をふさぐことにしか使えない!
遠くまで行く切符を買いたいのに
みんなうるさい 雑踏のシュプレヒコールだ!
ガラクタの闊歩! 遮断の行進曲だ!!
不必要な忙しさを盾に心の不感症を正当化しているぞ
仮面猿の組織的逃避だ
窮屈なラッシュ!
イデオロギーの混合
優越コンプレックスからの重たい友愛
変わり者への畏怖からくる謙遜
アイデンティティのアッシュ!
急げ 遅れるな 一人のつまづきが全員の大迷惑だ
無機質な街の止めてはならない広大化だ
トイレでの食事
睡眠中のセックス
アアア アアア アアア
イマジネーションのグアッシュ!
弱虫なのに一歩を慎重に踏む時間もない
急げ! さあ! 生きろ生きろ生きろ
みんなでみんなに貢献するんだ
裕福な社会ができた人間を作るんだ
うるさい!!!!
これから
ぼくは
コーヒーを飲むんだ
ゆっっっくりと