詩人:和泉 | [投票][編集] |
思い出を抱き締めたら溢れ出して
両手から漏れるそれらを必死に掻き集めた
失くしたくはない と
頬を濡らしながら
抱えきれないものばかりで
求めるのは
誰かが差し出してくれる器と
共有しよう と
微笑む顔
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この保たれた距離は
臆病の証
崖から落ちかけて
掴んだ“誰か”の手
振り払われたら
拒絶されたら と
汗ばむ掌
離れた距離からじゃ
声も届かないのに
保った距離は縮むことなく
けれど
“誰か”が微笑みながら言った
そんなに離れていたら
ワタシが落ちそうになった時
誰が助けてくれるの と
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秒針の音(ね)
眼に映る時は
スローに
スムーズに
時を止める魔法なんて
誰も知らない
世界中の時計を壊したところで
ただ時間がわからなくなるだけのこと
ジャストで鳴り響く鐘の音は
あまりの大きさに
誰も近寄ろうとはしなかった
詩人:和泉 | [投票][編集] |
年の数よりもの読み潰した本
皺の数よりもの記憶(おもいで)
いち
にい
さん と
繋がっていく絆
大きな家に入りきらなくなった愛は
皆にお裾分け
温かい家も
今では記憶と私と
我が家の様に入ってくる白猫と
まったり ぽかぽか
うたた寝中
そんな
老婆の休日
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失くしたものに番号をつけるなんて
キリないし
両手で掬(すく)えるだけ掬(すく)おうと
欲ばかり
指の間から
溢(こぼ)れているのに
気付かないくらい
番号をつけなきゃ
並べられないし
失くすばかりの私を見て笑う人がいることに
傷付いて
巣くう喪失感から
救って なんて
また頼って
救う なんて
したことないくせに
失くしたものに番号をつけるなんて
キリないし
溢(こぼ)れないように
掬(すく)うなんて
できないけれど
せめて
一粒でも
残せたなら
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飲んだ台詞は
喉の奥に消えた
この舞台で
主役は僕のはずなのに
ライトアップされず
劇もまだ中盤で
長い 長い
劇に
終わりは見えない
生まれる前に
渡された台本は
真っ白で
鉛筆と消ゴムを
差し出され
“自分で造れ”と
舞台に押し出された
僕の台本は
まだ10ページにも満たなくて
けれど
ライトアップされるシーンが
いつか訪れる
だから
今日も僕は
舞台に立っているんだ
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目隠しをされたのか
自ら閉ざしたのか
それさえ忘れた霧の中
白いもやに溶けたくない と
飛込んでいった少年の姿さえ
もう見えない
辛うじて見える足元
汚れた靴は
固い地面を嫌がった
下ばかり眺めて
歩き続けて
更に
迷って
目隠しをしたのは誰
眼を閉じたのは自分
だんだんと
霧が濃くなり
5分前
濃霧注意報が
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過ぎ去る今日が怖い
戻らない昨日が怖い
迫り来る明日が怖い
あっという間に過ぎてしまう時間(とき)が惜しい
与えられた時間
上手く使えたならいいのに
嗚呼
今日ももう終わる
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固い地面に足が悲鳴を上げる
よく此処まで歩いてきた と
自分を甘やかして
本当は
止めてもいいんだって
自分が選んだなら
止めてもいいんだって
けれど僕を置いて皆が歩いていくから
十歩後ろから背中を眺め
ゆっくり歩く
目的がない旅に
足が泣き叫ぶ
丁度良いベンチは塗り立てで
丁度良い芝生はびしょ濡れで
早く見つかるといい
此処にいたいと思える場所
それまで僕は
歩き続ける