詩人:さみだれ | [投票][編集] |
私の半分は死んでいて
腐敗していく過程の末
もう半分が意地悪く
ヘラヘラ笑っておるのです
さて、私とはなんぞや?
と、問うてみた次第でございますが
はて?と首を折るもの
苛立たしく咳き込むもの
隣の女のけつを撫でるもの
様々な顔がのっぺらぼうでござますゆえ
皆同じに見えてしまいまして
ヘラヘラ、ヘラヘラと笑っておるのです
廃人の一生
彼は枯れ枝を折り続けた
名前など知らない
どの季節のものかも
誰が用意したものかも知らない
彼は白いベッドが汚く変色していく過程を
死ぬまで見なかった
知らなかったのだと思う
彼のもとにはついに誰も来なかった
最後の心音の余韻を誰も聞かなかった
彼の手が力なく落ちたとき
やはり枯れ枝は折れた
たった一本の枯れ枝を
永遠に折り続ける未来を
やはり誰も知ることはないのだろう
あなたが異常であるからこそ
私は人々に愛されるのです
そんな神様の夢を昨日見たんだ
私は死んで
鬼に骨を抜かれ
私はもう一度死んで
舌を切り落とされる
私はまだまだ死んで
腸に羽毛を詰め込まれ
私はいつもいつも死んで
人間になって生きる
私はついに死んで
人間になって生きる
恋人は脳を抜かれて
空を見ていました
私の方はといえば
ヘラヘラと笑っておりました
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覚めやらぬ夢
雲の切れ間に見せる
薄紅の頬をした彼女
ほどなく波のごと失せる
覚めやらぬ夢
唐突に押し寄せる
虚弱の真理を見抜き
胸を撫で下ろす
「それとて微睡み、散在する某のひとつ」
往来を闊歩する
私は一人
ただの一人
覚めやらぬ夢
とうに見違えた
薄紅の頬をした彼女
白昼にゆらめく
ただ一人
覚めやらぬ夢
虚構の波間に見せる
どこか知らん航空写真
あなたは誰?
どこにいるの?
覚めやらぬ夢
見ているのは一人
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風車広場を駆け抜けて
黒猫バロンは夜にとける
水色の水彩絵の具で塗ってくれ
路肩の画家にそう言い捨てて
不安定なきらきら星が
子供たちの内心の事象面から
外的接触を試みようと飛び出してくる
星ひとつをつまみ上げ
空いている窓に放り込んだ
黒猫バロンは帰ることを忘れたんだ
私は仕方がないとのみ込んだ
汽笛が鳴り
頭上を黒い渦が覆う
夜でもないのに
彼は夕暮れに何を思っていただろう
紫の空を仰いで
どうなりたかったのだろう
きらきら星が空気に浸され
私の肺をいっぱいにする
混濁する意識の片隅に
足元を過る黒猫バロンが
星のごと輝いて見えた
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空を仰ぐ
飛べない鳥たちは
歩いていくこと
決めていたのだろう
その瞳にうつる
雲の影から
一歩踏み出せば
世界は輝くよ
君の嫌いだった
大きな犬だって
そんな世界を
見ていたんだよ
ここで今 うたおう
君の心から
暖かな光を遮らずに
歩いていく道
探しながら
君の好きだった
あの面影から
見えている今を
思いながら
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私が楽しい詩を書いたなら
それは音楽になるのでしょうね
涼しげに野原を駆ける
夏の風を思い出すのでしょうね
あなたの心が荒んでしまって
耳をふさいで いじけているなら
あの楽しかった無邪気な詩もまた
改行だらけの言葉の羅列
私が真摯に詩を書いたなら
それは音になるのでしょうね
潮騒の途切れた間に
この詩があれば嬉しく思う
恋人たちの足音に
この詩があれば嬉しく思う
あなたが聾唖になった日に
この詩があれば嬉しく思う
私が聾唖になった日に
あの詩があれば嬉しく思う
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夜が好き
この虚無感
何もないとは言い切れない闇のなかで
どうして虚無感を覚えるの
私の放った言葉も
見当たらなくなるのに
どうして不十分な優しさを
私の肺に届けるの
躍動しない
この安心感
私は否応なしに真っ黒い服を着せられて
誰にも触れないように歩くの
ぽつりぽつり雨が降り
誰にも見つからないように雨宿りをするの
街灯を避けて ぽつりぽつり
夜が好き
夢のなかでこの星空が見られたなら
この星空は何のためにここにあるのだろう
絶対ではない不安があって
必要としない悲しさがある
私たちのためにこの星空があるのなら
夢のごと素敵なことでしょう
だから私は さみしいのでしょう
夜が 好き
脳が躊躇うのを
楽しいと感じる不気味な夜が
心が重力に捕まって
動けなくなるのがとてもいい
虚無感のなかにあなたを見つけて
その安心感を否定する
この夜が
心底好きなのです
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魂は夕暮れに佇む
その影を月が踏みながら
吹く風に靡く草の 道連れにと揺れる
メランコリヤの行く果てに
藍色の空あらば
気を付けていかねばならない
今に目が 闇に追いつかなくなるだろうから
そこに身を伏せて
耳を澄ましてごらん
震えているのがわかるだろう
カタカタカタと 泣いているのがわかるだろう
魂は星となり
それは影を潜めた
冷たい風も帰りたそうに
草を掻き分け急いでいるよ
私を道連れに、と 後ろを付いて歩いたんだよ
幻想交響曲 第五楽章
(過去作)
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あなたが豊かでありますように
気負いなく生きられますように
ただひとつの言葉をもって
あなたが微笑みかけてくれるなら
私はもう去ってもよいのでしょうか
ただひとつの言葉をもって
あなたが手を取ってくれるのなら
私はもう去ってもよいのでしょうか
世界などくだらないと
蔑む背に語りかける
昨日優しくしてくれた人の話
それは完成された
ひとつの世界なのでしょうか
あなたが手を取って
引っ張ってくれた世界を
けれど私はもう去ってしまうのでしょう
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赤く燃ゆる海
漁船の波紋
夏鳥は故郷を求め
長く飛びつづける
うすら紅の頬に
笑窪を浮かべて
風に願わくば
今、凪ぐようにと
私は星よりも軽く
思いはせるばかり
“昨日までの明日“が
今日であればと
防波堤の彼方
揺れてうち消えていく
夜を嫌うように
逆光についぞ消えていく
赤く燃ゆる海
夏鳥は故郷を求め
長く飛びつづけるのに
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するりと指の間を抜ける
理論上の愛
満月の縁を転がり続け
みるみるうちに痩せていく
そして今日
星になった 君が揺れていた
そして今日
君になった 星がからからと笑う
確立された未来
執行される情の処罰
目尻から伝う本心
君の周りを転がり続け
みるみるうちに痩せていく
そして今日
花になった 君が揺れていた
そして今日
君になった 花が涼しげに笑う