詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
山桜の落ち葉を突き破って
芽を出しのは
スノードロップか。
◆
楽園を追われた
アダムとイブの苦しみに
追い打ちをかけたのは
降りしきる冷たい雪。
震えながら泣き悲しむイブに
天使は語りかける。
「いつまでも冬は続かない。
いつか春がやってくるよ」と。
そして天使が雪に触ると
白い可憐な花になったという。
二人の暗い絶望を
明るい希望に変えた花、スノードロップ。
◆
また降り出したボタン雪。
けれど、庭のかしこで春の息吹。
「いつまでも冬は続かない。
もうすぐ春がやってくるよ」と。
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ほんとうに久しぶりの青い空。
まだところどころに雪が残る
温泉街を抜けて
いつものカフェに向かう。
風は冷たいけれど
空は青く美しく…。
ふと見上げるとロウバイの花。
山茶花の赤や白ばかり目につく通りで
眩いばかりの黄金色。
咲いていたのは
廃業となった旅館の玄関先。
いつの頃から誰のためともなく
花弁をほころばせることが
常となってしまったロウバイたち。
今年もひっそりと
けれど楽しそうに咲き誇る。
美しい花を咲かせたことより
美しく咲こうとした自分を愛しむように…。
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風の怒りか。
海の嘆きか。
ゴーゴーと音が鳴り響く。
高みからか
地の底からか
ゴーゴーと音が鳴り響く。
けれど
こんな日にも
人はやってくる。
風の怒りと海の嘆きが
ひときわ激しく渦巻くここへ。
心の凪に
出会えるかのごとく…。
ゴーゴーと音が鳴り響く。
あなたの中で
わたしの中で…。
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冬の海よ
なぜそんなに嘆くのだ。
白しぶきを天まであげて。
眩い光に満ちた
春が愛しいのか。
爽やかな風が走る
夏が愛しいのか。
思い出が静かにこだます
秋が愛しいのか。
冬の海よ
なぜそんなに嘆くのだ。
白しぶきを天まであげて。
いいえ、春が愛しいわけではあません。
いいえ、夏が愛しいわけではあません。
いいえ、秋が愛しいわけではあません。
こうして嘆かざるを得ない
冬が愛しいくてたまらないのです。
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空(くう)を漂う
小舟が一つ。
あてどもなく漂う想い舟。
ゆらゆら揺れて
導かれ…。
内(うち)を漂う
小舟が一つ。
行き場なく漂う想い舟。
ぐるぐる回って
ため息吐息…。
心の川を流れる想い舟。
揺られて笑い
回って泣き…。
心の川を漂う想い舟。
運ばれし先で出会うのは
自ら植えた想いの果実。
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吹雪いていた雪が
ぴたりと止んだ。
積もった雪の上を歩くのは
いつもより何倍も疲れるが
ありがたいことに
冷たいけれど穏やかな闇に包まれる。
暑くなってきて
コートの前を開ける。
町に入ると歩道の雪がかかれており
その上を導かれるように
そこへと向かう。
千回以上は通ったその場所へ。
初めの頃は建物をめざし
やがてそこにいる人をめざした。
今はただそこへと向かう。
すでにそこにいる自分を
体が追いかけていくように。
雪道をそこへと向かう。
膝近くまで埋もれ歩いたありし日を
懐かしく思い出しながら。
そこへと続くこの道は
それからどこへと続くのだろう。
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暖かな車内で
本を読みながらうとうと。
「ふぁ〜あ。ふぁ〜」。
隣のおじさんの大あくびに
目を覚まして
窓の外を眺めれば
二筋の飛行機雲。
神社の千木のごとく「X」を
青い空に描き…。
ここが神の住処と
言わんばかりに…。
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カモメたちは
空に書かれた音符が
見えるに違いない。
ほら、なぞるように飛んでいる。
ススキたちは
風が振るタクトが
見えるに違いない。
ほら、リズムに合わせて揺れている。
子どもたちは
天からの白い手紙が
読めるに違いない。
ほら、嬉しそうにはしゃいでる。
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フリースのポケットから
卵を取り出して
「こんなところに卵が…」とキミ。
「いつから入れていたの。
もう食べられないかも」とワタシ。
「さっき入れたんだよ」とキミ。
「なあんだ、ウケねらい?」とワタシ。
おかしいと思えたのは
食事も終わって
食器を洗っているとき。
キミの一連の行動に思いをはせ
ワタシはクスクスと一人で笑う。
そんなふうにあとから気づくのだろう。
それがかけがえのないひと時であったことに。
思い出のアルバムをめくるように
時のアルバムをめくりながら…。
暦の上ではもう春。
けれど、体に届くまではまだもう少し。
今はまだポケットの中。
一個の小さな卵のごとく…。
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天を仰いで
地を仰いで
風を仰いで
人を仰いで
自らに戻る。
一日が旅のごとく…。
喜に煽られ
怒に煽られ
哀に煽られ
楽に煽られ
自らに戻る。
一瞬が旅のごとく…。