詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
夕暮れの道を歩く。
歩きながら
一歩また一歩と
自分にかえっていく。
さあ、あなたの家に
「おかえりなさい」。
たどり着くまでに
なにかもかえして。
さあ、わたしの家に
「おかえりなさい」。
一日の終わりには
たとえわずかな時間でも。
「おかえりなさい」。
自らの家に。
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春を待つやまぼうしに
またも
空から白いお客さま。
次から次にやってきて
やまぼうしはわたぼうし。
けれど
枝のかしこで芽は吹いて
やまぼうしはいっすんぼうし。
すると
空がパッと晴れ
やまぼうしはかげぼうし。
五月の空に
雪のように白い花を
咲かせるやまぼうしよ。
春を待つやまぼうしの
春を待つ。
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窓の結露を
人差し指でこすれば
窓辺の景色は
思い出のように滲み
せんなきことばかり
心に映る。
雪の夜、足跡、コートの背中…。
それから幾つの冬を
重ねたことだろう。
窓の結露を
人差し指でこすれば
滴がひとすじ。
せんなき涙のように
心に流る。
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紅白に分かれて
みんなで歌合戦。
それぞれが歌えば
紅い花
白い花
それぞれの花が咲き
ステージは花いっぱい。
歌に踊りに
盛り上がる。
観客が歓声上げれば
黄色い花
ピンクの花
さまざまな花が咲き
会場は花いっぱい。
終わってみんなで
「故郷」を歌えば
みんなの
心は花いっぱい。
軒下に
いまだ氷柱は下がれども
花いっぱいの春が来た!
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いちばん最初に冬が来て
いちばん最後まで冬が留まっている
右手よ。
左手よりも心臓から遠く
それゆえ
ポケットで温まる暇もなく
仕事を請け負っているのか。
右側を使うことで
心臓が傷つくリスクを減らし
また動かすことで
血液を受け取るために。
いちばん寒い思いをしながら
いちばんよく働いている
右手よ。
あなたが温まったときに
春が来る。
それまでは言わまい、
春が来たと。
たとえ花が地を埋め尽くしても…
たとえ高みから鳥が歌っても…。
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久しぶりの陽気に誘われて
島根半島に出かけてみる。
水道に架かった橋を渡り
くねくねとカーブをした道を
半島の先端に向かって走ると
大山が見えてきた。
空と海の青いキャンバス
まばゆいばかりの真白い衣
ゆったり広がる優美な裾野…。
部屋から見る姿との違いに
私は戸惑い
エトランゼのようにキミを見つめる。
一抹のジェラシーを感じながら…。
キミもエトランゼのように私を見る。
けれど私はもう知っている。
キミはキミであることを。
私は私であることを。
互いに何も変わったりしないことを…。
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目が覚める。
町はもう目覚めているのだろうに
ひっそりと静かで
陽はもう昇ってるのだろうに
まだほの暗く…。
子守唄のような柔らかな空気が
部屋を満たしている。
こんな日は決まって
雨が降っている。
起き上がって外を見ると
やっぱり雨。
海を、大地を、家々を
慈しむように粉ぬか雨が降り注ぐ。
窓を開けて雨の匂いを楽しむ。
また少し春を連れてきた雨の匂いを…。
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今日にありがとう。
豊かさとは深なりと
気づかせてくれた今日に。
今日にありがとう。
強さとは低さなりと
気づかせてくれた今日に。
今日、ありがとうの日。
あなたと出会えて
今日、ありがとうの日。
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もういいかい。
まあだだよ。
木々のかしこから
耳に響くのは春の囁き。
もういいかい。
もういいよ。
大地のあちこちから
耳に響くのは春の囁き。
もういいかい。
もういいよ。
風のまにまに
耳に響くのは
日ごとに増える春の囁き。
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あたりが昏くなり
ふーっと吹雪がやってくる。
その一息で
枯草の大地も
緑の木々も
瞬く間に真っ白に。
あわてて鳥は藪に隠れる。
あたりが明るくなり
すーっと吹雪がやんでいく。
けれど再び昏くなり
ふーっと吹雪がやってくる。
ふーっと吹雪いたり
すーっとやんだり…。
神様の呼吸の中で生きている…。