詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
祖先の記憶が刻まれた
火山灰の大地が広がる
鹿児島県上野原遺跡。
土というタイムカプセルに乗って
1万年の時をさかのぼる。
沈黙の大地が
祖先たちの営みを
饒舌に物語り始める。
ここで確かに生きていたのだと。
ここでこう暮らしていたのだと。
土器や住居の跡を
言葉に替えて・・・。
ねむの木が咲き
アキアカネが飛ぶ草原に
1万年の昔を生きた人々の
賑やかな暮らしがよみがえる。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
「ここが邪馬台国だったのでは」
とも言われている西都原古墳群。
広大な敷地の中に点在する
3世紀から7世紀にかけて築かれた
墳墓の数々。
その数311基。
日本最大の帆立貝形古墳と
九州最大の前方後円墳もここにある。
弥生時代の稲と鉄が築いた
富と権力のランドマーク。
1500年の時の経て
自然の一部と化した古墳を
時に荷物を積んだ馬が大地を陥没させて
その存在を明らかにしたという。
生い茂る夏草を
古墳につながれたヤギが
おいしそうに食んでいた。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
日向灘の断崖の下に
亀の形の大きな岩。
その背中に縄で囲まれた
大きなくぼみ。
断崖の上から
運玉という素焼きの球を投げ
その窪みに見事入ると
願い事が叶うのだという。
5個100円也。
誰もが真剣に窪みをめがけ
運玉を投げる。
けれど
入りそうで入らない。
海に沈んだあまたの願事も
鵜戸の神様が
広いお心で
叶えてくれることを願わん。
誰もがはるばる
やってきたのだから。
鵜戸神宮/宮崎県日南市大字宮浦3232
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
天井画の秘密
ハス、クロッカス、菖蒲、ススキ、
ジギタリス、サボテン、葡萄、紅葉…。
鹿児島神宮本殿の天井に描かれた
美しいボタニカルアート。
いずれも身近な
花や野菜、果物の絵だが
宝暦6(1756)年
島津重年公により再建された折
サボテンやメロン、ケイトウなどは
日本になかったとされている。
薩摩藩の密貿易の証だという。
明治になって150年弱。
鹿児島は
今もアジアの匂いが色濃く漂う。
夜のとばりが下りると
いっそうその密度を増して…。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
九州に出雲の神・大国主命を
主祭神とした神社がある。
宮崎県の中ほど
日向湾にほど近いところにある
都農神社である。
社伝によると
神武天皇が祭神を祀ったという。
摂社に祀ってあるのは
スサノオ命と
スサノオ命の義父母にあたる
アシナヅチ命・テナヅチ命。
末社の熊野神社には
ククリヒメ神が祀られていた。
ククリヒメ神は『日本書紀』の一書に
あの世とこの世の境目である黄泉平坂で
イザナギ命とイザナミ命の
争いを収めた神として登場する。
神社の由来や祭神は
歴史の中で変遷を
余儀なくされたところも少なくないが
それを含め
神社は私たちにさまざまなことを伝え
問いかける。
「人々が歩んできた道は
いかなる道であったか」
そして
「お前はいかに
歩もうとしているのか」
と。
都農(つの)神社(宮崎県児湯郡都農町川北13294 )
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
暑さをもって暑さを制す
といわんばかりに
炎天下で燃え盛る松明のごとく
花開く松明草。
エアコンがない夏も3回目。
以前使っていた
調子が悪かったエアコンは
引っ越しの時に処分。
室外機を置く場所も考えず
引っ越し先の庭に花や木を
植えてしまったのがそのきっかけ。
なにせ季節が秋だったもので…。
昨日、米子は36℃。
そんな中で行われた
第32回全日本トライアスロン皆生大会。
勢いよく駆け抜けるツワモノたちに
エールをもらう。
暑さをもって暑さを制せよと。
夏の元気をありがとう!
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
薄明かりの東の空に
まだ還らぬ二つの星。
天空の父なるジュピターと
美の女神ヴィーナス。
日が昇る前に
ジュピーターは還ったが
日が昇ってからも
ヴィーナスはうっすら輝き続けていた。
けれど
散歩の人に声をかけられ
振り向いて返事をした間に
彼女は還ってしまった。
さようならも言えないまま…。
目を凝らしても
見つけることは叶わず
ともに過ごした思い出だけが
明るくなった空にひっそり輝く…。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
子どもの頃
夏休みは姉や従姉妹たちと
母の実家で過ごした。
祖母が「連れてくるように」と
言っていたのだという。
女ばかり6人がいつものメンバー。
離れに住んでいる伯母の昔話を聞いたり
玉蜀黍を取りに行って食べ
その皮で人形を作ったり…。
ちょっと苦手だったのは
いつもおかずに出てきたイギス。
海藻を練って固めたもので
味はあまりない。
軒下には決まって松葉ぼたんが
一列に並んで咲いていた。
大人になってイギスがあると
競って姉と食べるようになり
松葉ぼたんも好きな花になった。
そうして時折思い出す
あの頃の夏休みと
祖母や伯母の遠い面影を…。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
朝ご飯を食べきに来た
蚊に起こされ
我慢して寝ようと思ったが
今度は
朝ご飯を探しに来た
烏の声に起こされ…。
外はしらじら。
あきらめて起きて
庭を見るとカサブランカの花。
その麗しき姿に
すっきりと目が覚める。