詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
雪の日のつれずれに
雪について調べてみる。
玉雪、粉雪、灰雪、綿雪、餅雪、べた雪、水雪…。
今日の雪は粉雪か。
新雪、締り雪、ざらめ雪、霜ざらめ雪、氷板…。
積もり方もさまざまで
今日の雪は真白い新雪。
雪の字は「雨」+「彗」で
箒で掃くことができる雨が由来とか。
雪の日のつれづれに
雪について調べながら
思い出すのはアラブの羊。
成長の段階によって
細かく呼び名があるのだという。
この国に降る雪のように…。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
雪の夕べ
海辺の家に灯がともる。
そこだけ
ふわりとオレンジ色に。
雪の夕べ
海辺の家に灯がともる。
いつも同じ灯だけれど
なんだか今日は懐かしく。
雪の夕べ
もうすっかり辺りは暗く。
そこだけ
ぽつりとオレンジ色に。
雪の夕べ
海辺の家に灯がともる。
忘れじの思い出のように。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
積もった雪に
光の精が舞い降りる。
虹色の透き通った衣着て。
光の精の訪れに
雪は嬉しくて涙をポロリ。
なぜって
たいそう心地よく。
雪は涙をポロリ、ポロリ…。
ポロリ、ポロリ…。
心を緩めて
自分自身を解いていく。
しかれば
春は喜びにあふれ…。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
東京に住んでいた時
仕事で島根に行った。
ホテルの近くの八百屋に
熟したプラムが売ってあった。
部屋に持って帰って食べると
とめどもなく涙があふれてきた。
おいしかった。
失ったもののすべてが
ここにあるように思えた。
折しもラジオから「アメージング・グレース」が流れ
それがさらに涙を誘った。
しばらくして
ホテルから電話をかけると父が出た。
少し寂しそうに思えた。
実家までは電車で1時間足らず。
帰ろうと思えば帰れたに違いない。
そんな思いも脳裏をかすめた。
けれどそれをしなかった。
仕事で訪ねた地で
古代ハスの花が咲き誇っていたので
初夏だったに違いない。
秋の終わりに、父は逝った。
紅葉のきれいな年だった。
もう20年も前のこと。
今日、再び仕事でその地を訪ね
そんなことを思い出す。
大切にしていたプラムの種は
どこかへ行ってしまったけれど
思い出だけは今も
ころんと胸から転がり落ちる。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
雪解け水で
濡れている道を車で走る。
跳ね返った水が
雨のように
フロントガラスを濡らす。
前の車も
勢い水しぶきを上げながら走る。
その水しぶきが
ゆらりと光る。
見ると
日の光が当たってできた虹だった。
きっと私たちの車の後ろにも
虹の水しぶき。
車を汚す雪解け水の
ちょっと粋なプレゼント。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
幾重にも幾重にも檜皮を重ね
出雲大社の御本殿の
180坪もある大屋根が葺かれる。
その数約32万枚
両側では約64万枚。
重ねられた檜皮の
軒先の厚さは約1mにもなる。
屋根下地には
木材が縦横に何層にも重ねられ
さらに檜皮で覆われるその姿は
まるで樹木を再現するかのごとく。
神様のお住まいにふさわしい
最高に美しく
この上なく荘厳な樹木を…。
ゆえに重ねられた檜皮の隙間に
巣を作る鳥がいるのもうなずける。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
用事を済ませ部屋に戻ると
よい香りがした。
甘く爽やかな柑橘系の香り。
さっき食べた伊予柑の香りだ。
衣がやぶれた際
解き放たれた精油たちが
部屋の中に広がって
香りを立ち昇らせているのだろう。
ゆらゆらと
かげろうのように…。
冬の淡い光を重ねて描かれた
衣の優しい橙色にも似た
繊細な香りを
すーっと体の奥まで吸い込む。
また少し春に近づく。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
蕗の薹の天ぷらと
蕗の薹味噌をいただく。
ほどよい苦味が
体の中に広がっていく。
意識的かつ最後に
受け入れたこの味に
体は今でもなじみが薄く
早く追い出そうと働きかける。
そんな気持ちを察した苦味は
ならば誰かを道連れにと
老廃物の手をつかむ。
つかまれて老廃物は
苦味と一緒に体の外へ。
「春の食卓には苦みを添えよ」。
ただしほどよい苦味を。
青春の日々の
ほろ苦い思い出のような…。
詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
花弁を重ねるように
苦労を重ね
大輪の花となる。
その傍らに佇めば
やさしさだけが匂い立つ。
花弁を開くように
夢を開き
大輪の花となる。
その姿を眺めれば
静けさだけが凛と漂う。
美しき花は
人にも咲き・・・。
人の花は
時を経るほどに味わい深く…。