詩人:右色 | [投票][編集] |
キルトシュシュは笑わない
それが魔女の掟だから
キルトシュシュは怒らない
いくら子供がイタズラをしても
少し困った顔をして許してくれる
キルトシュシュは声を出さない
道に迷った人を見ればそっと細く長い指で行き先を示す
キルトシュシュは泣かない
辛いことがあっても誰かにそれが移らないように
そんなキルトシュシュに
「ありがとう」
そう言うとキルトシュシュは掟を破って
小さく笑ってくれる
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欲しいのは嘘じゃなくて秘密なんだ
秘密が無くなるのはうれしいよ?
でもそれはきっと
つまらない関係になる
果てはつまらない事を必死で揉み消すだけの関係に
それは嫌だし
アナタも嫌でしょう?
だから秘密を作るの
もちろんアナタも
――ねぇ
こういうのも秘密の花園って言えると思わない?
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その木は古いというだけで
取り分け大きい訳でも無い
その木は昔からそこにあるというだけで
喋ったりはしない
その木はいつまでもその木のままで
目立った奇跡も起こさなさい
その木はずっと同じ場所に立っていて
隣りに立てば ほんの少し優しい気持ちになれる
そんな木で
今日も明日もずっと同じ場所に立っている
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ちょうど夕暮れ
太陽も月も姿を隠し
世界が空っぽになる
だから僕も
色んな悩みで埋まった頭を今だけ空っぽにする
穏やかに風と時間を一緒に感じて
ゆっくりと空を眺める
雲の形がどうだとか
他愛の無いことを考える
僕の一番好きな時間は夜だけど
夜を待つ
今は
一番好きな僕になれる
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よく言われるように人生は戦いの連続で
どこかで勝って、同じくらい負ける
臆病者の僕は全部に勝とうとした
未来永劫勝ち続けることなんて出来ると思っちゃいないが
すぐ目の前にある現実くらいは全部勝とうと決めた
考えつく限りの全力で大体は勝って、時々負けた
負ける度に僕の現実は狭くなり
やがて何にも勝てなくなった
何も無いその場所で僕は気づいた
大切なことは、ただ勝ち続けることじゃなくて
自分で勝つと決めた
そういう所で絶対に勝つことだった、と
そもそも僕は勝ち負けの前に
戦いもしていなかった
たぶん
どこにでもある良くある話だけれども
僕が
自分で人生始めた日
二つ目の誕生日の話でもある
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過去は殺され
未来はどこかへ消えたまま
仕方がないから現実(目の前のこと)を考える
悪くないが良くもなく
そんな普通を謳歌する異常
世界とか世界とか
そんな大上段、大袈裟斬り
飛んで、落ちて、這い上がる
そんな狂気ばかり
歌うように思考して
最後は何も憶えちゃいない
とことんとんとん
それでいい
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天使は天使のまま恋をします
純粋、故に 無知 で
美しい、故に 残酷 で
穢れを知らぬその身を差し出し合い
当たり前のことのように
「好きだよ」って言い合う
恋、そのものを描いた絵画
現在(いま)を永遠にするかのように
優しく
彼らだけの永遠の中で
優しく
お互いを抱きしめる
時間が止まった天使は
天使のままで恋をしています
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薔薇色の物語
トゲの先から枯れはじめ
赤い今日は血液から創られる
少女(アリス)は躊躇いながら
蒼い星に両手を合わせる
小さな箱の延々と永遠を願う祈り
月は夜に喰われ
狂気を止める者はもういない
既に鐘は七度(ななたび)鳴った
はじめよう
絡み合おう
薔薇色の幕はあがった
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今にも雨が降り出しそうな天気の中
子供に出会った
私はその子供と何の関係も無いけれど
ちょうど私も子供も一人きり
ちょっと与太話に付き合ってくれるかい?
そうだね
雨が降るまでの間でいい
『――いいかい?
ファミレスで出される使い捨てのタオルで芸術したり
同じ電車に乗ってる他人の人生あれこれ想像したり
そういう下らないことでもね
自分自身に意味があって、必要ならば
迷わずやるべきなんだよ
何
他人の目なんか気にする必要は無い
あれは何かと引き合いに出されるシロモノだけどね
面白いほど何もしてくれないんだよ
覚えておくといい
ルールは自分で作るものだ
常識なんてのはただのテキストさ
――ところで、私の言ってることは分かるかい?』
子供はこくりこくり頷く
『それはいいね
世の中には賢いと呼ばれるものが塵芥だけど
本当に賢いと呼ばれるべきなのは
人の話を聞ける
そういう人間だけなのさ
――あぁ、ところでチョコ食べるかい?
ちょうどポケットに入っていたんだ』
子供はこくりこくりと頷き
チョコを頬張る
『うん、いいね
世間一般では
他人から貰ったものを軽々しく食べるな、と教えているようだけど
とても閉鎖的な考え方だとは思わないかい?
そういうことだから
この国の人間の笑顔は信用されないんだ
君は黒人の笑顔を見たことがあるかい?
彼等はね
私達の感性から言うところの
十年来の親友に向けるような笑顔を誰にだってできるんだ
それは大きな違いだよ
――ところで君は笑えるかい?
こんな風に』
子供は表情を変えずに見つめ返してくる
雨が降ってきた
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女の子は
読めない文字で紡がれた恋愛小説だ
男の理屈なんて
不格好なものじゃあ
表紙さえめくることは出来ないよ
あらん限りの優しさで
分からないままでも
手をつないで歩いてあげればいいよ
他の誰かが読めばきっと
幸せな恋の物語になれるから