詩人:遥 カズナ | [投票][編集] |
南の島では、ずっと
幸せを花にたとえて
めでてきた
たしかな事だけが
波打ち際に残され
砂の一粒一粒の年月を
裸足で踏みしだいていくうち
若返ってゆく
岸部に咲いたハイビスカスを
摘み取って、たむけ合おう
沖縄の初夏の始まりは
命を咲かせたい夏
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「お前は、人の忠告を聞けない」
皆によく言われてきた
だから
そうなのだなと、何度思い返してみても
どうにも恥ずかし気持ちが
わき上がらない
要するに嘘っぱちが好きなのか
そう言えば、小学生の頃
「俺んちの屋根から明け方にUFOが見えるんだ」
そんな話しをしてくれる友達の家に
毎朝、朝早く通って
一緒に薄暗い朝焼けの空を眺めていたっけ
東の空がぼんやりと明るくなっていく
もう、すっかりぬるくなったビールを口にふくむ
風よ吹いておくれ
後からではいやだ
今すぐ清々しく、たおやかに
そう
もうすくさ、もうすぐ
見たこともない
なにかが、見えるはずさ
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蝸牛たちには
待ち遠しい曇り空の頃
のろまな願いが
薄い殻の中
水が
耳の中、いっぱいに流れ込むと
鼓膜の外側と内側の
音の際目を探し
心臓の鼓動と
今はまだ遠い
水滴の弾ける音と
ずれあいながら
調和していく
真っ白い山羊が
草原で草を食んでいる
明日はきっと、雨
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そこに菜の花の一輪を置いて来た
そうして歩いて、歩いて、歩いて
振りかえってみると
何もかもが
その一輪を
そっと置いた日から躍動し始めていた
海の白波よりもはっきりと
出逢いと別れの
一つ一つが
みなこちらに向かって手を振っている
そうした景色に
ブランコを引っ掛け
いつまでも
貧乏揺すりをするようにブラブラと眺めいると
もっと勢いよくブランコを漕いで
飛び降りて
どこまで飛べるのか
確かめたくなっていた
きっと
あの日を置いた菜の花の境目を越えられる
そんな気がして
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天気予報じゃ
午前中までどしゃ降りの雨の筈だった
「向こう側の交差点からここの前を通りが出来上がりますし
小学校迄なら歩いて10分程です…。」
不動産屋の話しを聞かされた
中古マンションの四階の窓辺から見えるのは
数台のパワーショベルが
町並みの所々を虫食のように住宅の取り壊しをすすめている様子だった
すぐにでも道路ができあがりそうな物言いだったのに
もうあれから随分たっていた
朝日の中
雨上がりの水溜まりから
犬が水を舐めているのだが
よく見ると首輪に鎖をひきずっていて
その端にまた首輪があって
ボロボロの犬の頭らしきものが繋がれ
時折、臭いを嗅ぐようにしながら亡骸を舐めたりしていた
亜熱帯地方特有の気候の気紛れさに
気象台は予報なんて宿題に
鉛筆の先が折れるような心持ちで
キーボードのキーを打ち込んでいるのかもしれない
乾き始めた
コンクリートの瓦礫へ向け
あたりに粉塵が振り撒かれないように絶えずホースで水をまく作業員
ズルズルと犬の首を引き摺りながら
あの犬はどこへ行ってしまったのだろう
なにも分からぬまま
10y
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心のつまらない人に会う
知らない事を知っているように話す
上面の話しばかりで
へきえきする
この間
庭のはしっこで蛇を見つけた
茂みに逃げ込む前に捕まえてやったら
噛まれてさ
病院まで行って
痛いやら、めんどくさいやら
とにかく大変だった
そうして昨日
蛇の逃げ込もうとしていたあたりの茂みを刈ってたら
そこにあった蜂の巣に気がつかないで
蜂にも刺されてしまって
また、痛いやら、病院やら、めんどくさいやらで
難儀な一日だった
でもまあ
蛇を捕まえようともう少し蜂の巣の方へ近づいていたなら
同じ日に蛇に噛まれるは、蜂に刺されるはで
なおさら厄介な事になっていたかもしれないと思うと笑ってしまう
こんな話しの方がよっぽど面白いと
俺は思う
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もうここへは戻れない
嘘をついた事が多すぎて
とりかえしのつかない
今
あてもない
ありきたりな
旅
何にも
例えられたく無い
唯一ふりほどけて
誰もいない
朝もやの
砂浜で
ぼんやりと
座っていたい
何にも例えられず
何にもおびえず
ただ家族と友達と
仕事と女の事を
毎日、毎日
来る日も来る日も
考える
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夜の浴室には
バスタブがあり
チャプチャプと水の中にある
なにもないような
いけないような
哀しみが
目を細めさせたがる
誰も知らない近さや遠さは
栓を抜いてさえしまえば
とりかえしのつかない
繰り返しへと吸い込まれ
もう指先を差し入れても
間に合いはしない
湿った手の甲で
唇を拭くように撫で
暗闇で呼吸を繰り返すだけだ