詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
生温い空気のなかで
爪を失くした指先が
君の足首をくすぐった
飛び跳ねて見下ろせば
透けた波が引いてゆく
小さな砂粒を掬って
佇む海へと無言で帰る
ああ君よ色眼鏡を外しなよ
似合わないってナンセンス
宿借りの鋭い足が
ずっと忙しく突ついてる
その綺麗な背中の貝も
今の君では気付けない
生温い空気のなかで
もうすぐ止まない雨が降る
紫陽花の色も知らない君は
きっとまた出会うんだろう
見下ろした足首に
這いすがる人の手と
詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
染みのないまだ綺麗な天井に
てのひら向けて腕を伸ばすけど
ジャンプしたって届かない
そんな当たり前の夢をみた朝
悔しいからもう一度
シーツにこめかみ擦り付けて
夢に戻ろうと目を閉じた
ジャンプして浮き上がって
そのまま星の河へ飛込む
ゴツンと音がして頭が痛んだ
染みの河もない天井に
頭をぶつけた音だった
こめかみ擦り付ける僕が
下で寝ているのが見える
さて何処からが夢だったか
詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
世界は変わらずに
ひどく美しいのだけれど
もう足が痛くて、
見ているのが面倒なんだ
朝の光にうすく目を開けて
それでも閉じてしまうみたいに
生暖かい布団に僕は
横になったままだけれど
君はもう目が覚めてるなら、
あたらしい風を吸って
ジョギングでもしてくればいいじゃない
そして帰ってきたら
少し僕を咎めて、
布団なんか取り上げて干しちゃってよ
ああ面倒だな
無い力を欲しいと思った
無い風が恋しく思えた
何にもない何にもないと唱えながら
やっぱり「沢山」に囲まれて
電車に乗って吊り革握った
もう沢山!って
いつだってこの口は叫ぼうとしてるけど
わかってるよ、自分で干すから
どうかそのまま笑っていてよと
はじめから解ってた事に頷く
どう足掻いても塞いでも
世界は何にも変わらない
わがままは尽きないし
どうしようもない性は健在だ
毅然として当たり前の顔した今日や明日に
お前はそんな奴だよって笑って
最後にこっちが折れなきゃいけないのは知ってた
いつだってそう
何度も何度も、どう考えたって届きやしない空に
手を伸ばしてジャンプしたくなるんだ
そんな自分がちょっと可愛いなって
気持ち悪く独り善がりして
独りの部屋でこっそり笑うんだ
自分で自分の頭撫でてやんないと
どうにもやってけない世界だよ
無い力を欲しいと思った
無い風が恋しく思えた
何か無いかなって最後に呟いて
項垂れながら今日も、ドアを開ける
詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
うまいことサヨナラできない
笑顔で握手もできそうにない
どうにも自分と混ざれない
マーブルの空に飛行機が
真っ直ぐひいたあの白い線を
うっとりしながら目で追って
同時に心を分けていた
きたない過去と
きれいな未来と。
線の上の、今だろうか
眩しい世界に憧れて
光に寄れば影は濃くなって
輪郭線は飛行機雲より
くっきり世界を分けていた
もう少し もう少し
やわらかい世界が好きだった
薄いカーテンをひいておいて
ゆっくり後退ってみよう
どちらが正しいかは
知ったこっちゃないが
駄目ならもう一度
強い光を探して戻ってこよう
うまいこと自分と握手して
そのまま引き連れて来れたら
それはそれで
いいんじゃないか。
詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
すぐに消えてしまう
この白い溜め息が
何やら急に愛しくなって
両手で捕まえたのだ
消え損ねた彼は
少し不機嫌に僕を睨み
ちぇ と舌打をして
足元の雪に重なった
そう怒るな、
固めて雪兎にしてやろう
溶けるまでの時間は
また少し延びるけれど
ぎゅうぎゅうと
押し固める僕の手の中で
また小さく
舌打をもらす溜め息
南天の瞳を飾る
赤い目をして泣いてるのか
ゆっくり溶けるまで
少しの辛抱だ
はぁ、とひとつ溜め息を吐いて
鼻先をじわりと溶かしてやる
詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
つめたい雨が降る朝
おはようの真っ白な息
明けていく一日の
静かな足元に寄り添い
傘を開いて坂をのぼる
ある日の始まりのなかで
ある年の終りを思う
サザンカが雫と一緒になり
ぱたぱたと花びらを落とした
この雨が遠くの町へ
静かに静かに去るころには
長かった一年が、過ぎて
この朝のように新しく
塗り替えられてしまうのだ
まだ降っていて、もう少し
まだ坂の先が見えてこない
詩人:ヒギシ | [投票][編集] |
がりがりがり
掻き集めて着飾っても
あんたの狂気にあてられて
全部はがれてしまう
傷みも悲しみも
むき出しの叫びが
簡単に人の心を
ぐちゃぐちゃにする
雲のない夜空が
今夜はひどく恐ろしい
どこまで届かせたいのか
止むことのない叫び
あなたほど苦しそうに生きる人を
他に知らない
しにたいのか
しにたいのか
いつか幸せになれるといいね
ありきたりだけど心から
そう思う