詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
目がまわるくらい
忙しく せかせかと暮らそう
やることない とか
ひまだよ とか
くそくらえで 暮らそう
交差点の信号待ち
青信号の後ろから
パンッと 響く
短距離走のスタートの合図
コンビニまで猛ダッシュ
日替わり弁当猛奪取
せかせかの 成果だ
昨日の誰かのさよならも
さっきの誰かの叱責も
するりと忘れるくらい
何も 何も 考えるひまはない
エレベーターの前でさえ
せかせか 足踏み
とはいえ
お腹はグーと鳴る
それは それで。
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風が吹く中
残った一つは ひどく必死だ
仲間たちはみな
とうの昔に 風に乗って
遠くに行ってしまった
いや もしかすると
意外に近くにいるのかもしれない
しかし 残った一つは
必死にしがみついて 離れまいとする
飛んでいくこと
飛ばされていくこと
きみにとっては 宿命であり
そんなことは 百も承知なのだ
だが
その白い繊維の隙間に
ちらちらと 見え隠れしている
きみの恐れや不安を
誰も 気がついてはくれない
きみの行き先が ぼくにわかるならば
そしてそこが すばらしい場所ならば
ぼくは だまっちゃいないのに
さて
そろそろ覚悟を決めた頃だろうか
次の風に乗ってごらん
その手を離して
手を離さなければ
きみの一歩は始まらない
次の風には 乗ってごらん
ぼくが合図をおくるから
今の姿は
決して最期ではなく
そこから きみは生まれ変れるのだよ
きみは 生まれ変れるのだから
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無機質な機械音をBGMに
ぼくらは 流れていく
ベルトコンベアーの上では
ことごとく 無力だ
試行錯誤はきりがないほど
しかし
流されることが
必ずしも 不幸ではないと
ぼくらは 気づく
あるいは 誰かの教えによって知る
この先に待ちうけていることを
知りたくもあるが
知ることが
必ずしも 幸せかというと
それも 箱の中に隠されている
開くか開かないかの
選択の余地があればの話だが
けれど
無力なぼくたちは
流されていく
自ら流れていたならば
少なくとも 恐れはなかった
けれど
無力なぼくたちは
流されていく 流されていく
誰かが
いたずらにスイッチに手を伸ばすか
誰かが
ひょいと持ち上げて
連れ去ってくれることだけを
待っている
無機質なBGMを聴きながら
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坂道の途中に
わたしの家はある
彼はいつも 遊びに来ては
夕方になると
その坂道をのぼって 帰っていった
坂のてっぺんには
いつも夕陽が丸くオレンジに発光していて
手を振る彼は
夕陽を背にした
影絵でしかなかった
影絵だったせいで
彼の表情の変化に
わたしは気づけなかった
あるいは気づかないようにしていた
その日
夕陽はいつもより光を増していた
おそらく
いつものように影絵の彼は
いつものように坂道をのぼっていき
夕陽の中に飲み込まれて
そのまま
消えてしまった
彼は消えたきりだが
夕陽は今も 発光を続けている
わたしは
影絵の彼の 最後の顔が
知りたくてたまらないでいる
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ぼくは きみに
なにも 与えたりはしない
与えているという認識は まったく存在しない
けれど
きみが ぼくから
与えられている と感じるのであれば
それは 本当なのだろう
それでこそ
きみとは 本物なのだろう
しかし ぼくは
ぼくは きみから
なにも 与えられてはいない
これっぽっちも だ
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憧れていたスーパーカーに乗って
夜空を飛ばしていたら
きみが部屋の窓から
片足を出していた
靴下も 脱げる寸前
窓に横付けして
手をひいてやったら
車にドスンと乗り込んだ
ああ 夜はメガネなんだ
なんて ちょっとドキリ
きみを乗せて飛ばしてあげる
星の映った海を横目に
どこまで 行こうか
いっそ 夜空のいちばん端っこまで
もう一歩で青空、ってとこまで
空の境界線を探しに出かけよう
スーパーカーで夜空を飛ばそう
ついでにさ
ぼくたちの境界線も探してみないか
ただし
見つけても
境界線は 越えてはだめ
境界線は 越えてはだめ
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悲しいときは
思いきり泣いていいよ。
なんて、言うやつの前では
絶対に泣いてやらない
反対に
笑ってやるってなもんだ
だからって
嬉しいことがあったからって
無防備に
笑ったりはしない
すくなくとも
2日半くらいは
笑っちゃうくらい
嬉しいこと
になんて出合えたら
絶対的に
みんなには 内緒で
できるだけ 長く
秘密にして
こっそり
こっそり
箱にしまっては
なんども蓋をあけて
のぞく
こっそり
こっそり
まだ
笑っちゃうくらい
嬉しいことに
出合ったことは ない
ぼくは いつだって
こっそり 泣いて
こっそり 笑う
きっと
そうするつもりでいる
今は。
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目指してきたものや
求めてきたものを
じつは すでに 失っていたのだと知り
ぼくは しかたなく引き返す
体だけは 引き返すけど
想いだけ 置き去りのまま
もうちょっと さまよわせてください
もうちょっとだけ
昔から きりかえが遅いのです
昔から あきらめが悪いのです
もうちょっとだけ
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交差点の時計の下で
待ち合わせ
あいにくの雨降りに
バロメーターは下がり気味
早く着いてしまった時は
ろくなこと考えない
信号が変わると交差点は
いっせいに動き出し
わたしは 運動会の騎馬戦を思い出した
あそこの知らないカノジョの
水色の帽子なら
取れそう
そしたら雨に濡れずに済むのに
髪型も
くずれなくて済むのに
水色の帽子へと 心の手がのびる
のばした手の
指の間にあなたの顔
とたんに わたしは
前髪ばかり 気にする
前髪ばかり 気にする