詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
かつて
わたくしは
花、だったのですよ
よろしければ
咲いてみせましょうか
と
言うと
水、のようなそのおかたは
しなしなとゆびを左右に
ゆらして
ていねいに
それをこばむ
いいえ
その必要はありません
なぜなら
そのことにつきまして
じゅうぶんにぞんじております
あなたが
花、だったそのとき
あなたはずっと
わたしのなかにひたっておりました
から
ひたすら、
に
それならばなぜ
あのとき
わたくしの花弁を
むげにしたのですか
と
問うと
水、のようなそのおかたは
ていねいに
かたむいては
こぼした
わたしはそのとき
じゅうぶんに
あなたのなかにしみいっておりました
ので
あなたとともに
ともに
散りおちたのですよ
ならば
どうしてずっといっしょには
いてくださらなかったの
です
あなたのなかは
とてもここちよかったのです
けれど
どうしてもわたしは
あなたの毛穴
から
しゅうしゅう、と
空にのぼらなければならなかった
そうしてそれは
すべて
あなたを
ふたたびうつくしく
咲かせるため
と
したなら
水、のようなおかたは
舌の上で
ていねいに
そう語ると
すぐにまた
わたくしの
あしもとふかく
ふかく
へと
消えていかれた