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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1320] 処方箋
詩人:千波 一也 [投票][編集]





弱々しい泣き声を自粛して
見上げる空に満ちるのは
サファイアの海

誰のものとも分かちがたい記憶の潮に
わたしは鼓動をそっと浮かべる

きれいな言葉も醜い言葉も
燃やしてしまえ、落日よ

思うほどには
わたしはわたしを拒絶しないから
自制の瞳はクリスタル





2015/09/21 (Mon)

[1319] 調度品
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日常のなか
その特別性が
はからずも失われゆくものを
調度品といいます

ちょうど、
郷土と響きが似ています

つるりと光をなめらかに着て
都合のいい解釈に
身を委ねます



2015/09/21 (Mon)

[1318] 積み木
詩人:千波 一也 [投票][編集]


苦々しい喜びや
清々しい恥じらいが
わたしの背中を支えてくれる

寒々しい真実や
みずみずしい偽りが
わたしの肩を持ち上げてくれる

どうしたって
戻れないのが過去ならば
どうしたって
訪れるのが
未来たち

そうしてわたしは
完成されつつある至らなさを
なぜだか胸に抱き締める
大切そうに抱き締める



2015/09/21 (Mon)

[1317] 謳歌
詩人:千波 一也 [投票][編集]


花にはなんの罪もない

それは
その身が
花ではないから放れる言葉

わたしが
花であったなら
だれの命に咲き誇りましょう


2015/09/21 (Mon)

[1316] きみの王国
詩人:千波 一也 [投票][編集]



きみの王国には
ママとパパがいて
きみの法に翻弄されている

きみの王国には
どんなものでも住めるから
かえるもクマもお友だち
くるまも絵本もお友だち

きみの王国には
国境があって
日々それは拡大をみせるけれど
ほんのささいな失敗で
時々それは縮小もする

きみの王国には
いつか終わりが訪れて
きみの不在が日常になる
でも大丈夫
ママとパパが覚えておくから

きみの王国には
焦りや疲弊やため息が満ちても
それらを一瞬で吹き飛ばす
まぶしい笑顔が咲いている



2014/11/06 (Thu)

[1315] キスから始まる
詩人:千波 一也 [投票][編集]


つながれた指の
無言の理由を探りあって

にじむ光の
遠くを見つめるふりをして

みずからの域を出ない
ふたつの熱帯魚



あれは雨の日だった

つたない呼吸が包み込まれて
許されて

汗は
濃密に、均一だった



地を打つしずくは
けせない鼓動と
よく混ざり

まぶたを閉じて描く、
水彩の部屋

あれは雨の日だった



容易くは崩れられない太陽の
言葉に代わるさえずりを
そっと歓んでいた
ふたつの恥じらい

はじまりの、キス



時は寡黙に
けれど、しっかり饒舌に
けなげな偽り合いを囲っていた

秒読みに
形をなしはじめる約束を
浅く、満たして

やさしい砦のように


2014/11/06 (Thu)

[1314] 十字架の空
詩人:千波 一也 [投票][編集]


貫いて、
まっすぐ空を貫いて
僕は僕の
生きてきた道を
証そうとしていた

この手を握りしめると
隠しようのない非力さが伝わって
けれどわずかに
意外な力も伝わって
僕は
僕以外のものになどなれないのだ、と
ただまっすぐに
苛立っていた

そこへ
急な角度で現れたのは
君だったね
あり得ないほど自分勝手な生き方で
笑わせたのは君だったね

真一文字に
雲が流れていった
はじまりの、
あの夏

僕に守れる
ものがあるとしたら
きれいに
理由を飾りつけて
守りの一切を放棄しようとする僕を
見逃さないことだ

守ろうとする弱々しさと
格好悪いほど必死な姿は
無かったことになど
ならない

すべて、
すべてを認めることが
僕に守れる僕、だ

たやすくはない
ただひとりの
僕、だ

貫いて、
まっすぐ空を貫いて
僕は
君の気まぐれに
つまずいてばかり
だけど

相変わらず、
だけど

僕は
僕以外のものに
僕の知らない、あかるい夢のような僕に
なれそうな気がしている

知らないことが
やさしく思えるような
みえない僕に
なれそうな気がしている

互い違いの一直線は
実は
互い違いではないのだろう
きっと
懸命ならば、
同じことなのだろう

幾重にも
幾重にも
それぞれの信じる、一直線が
結ばれた空には
分かれ目などない

きわめて繊細に編まれた絹のように
穏やかな空だ、
今日も

頑なな
僕たちのうえに、
唯一無二の約束ごとのように



2014/11/06 (Thu)

[1313] おいで。
詩人:千波 一也 [投票][編集]



おいで、

すべてを捨てる必要なんてないから
一時しのぎでいいから

おいで、

聴いてほしいことだけを
一緒に忘れてあげるよ

おいで、

誰だって孤独なんだってことが
わかるころには夜明けだから

おいで、

預けものがあるなら
待ってるさ

おいで、

大事な誰かに
ほんのわずかだけ
似せてあげるから

おいで、

心を貸せるかわからないけど
それでも良ければ

おいで、

秘密を消してしまえるよ
きっと

おいで、

どうせ
傷がふえる予定なら

おいで、

その疑いは
正しいかも知れないよ

おいで、

何に従ったのかなんて
理由を問う気は
無いさ

おいで。



2014/11/06 (Thu)

[1312] 狼たち
詩人:千波 一也 [投票][編集]


三日月の
燃えるような匂いが、
遠吠えの森を
濡らし始めると
いまだ熟さぬ果実のような
青い吐息は呼応して
疾走の支度を始める
あてもなく
ただ、
匂いだけを頼りに
荒削りの爪を
三日月へ
重ねる

鏡に映るつめたさは
牙ではなくて、
牙を照らす
あの
月明かり
傾くたびに
増してしまう鋭さは
牙ではなくて、
牙を暴く
あの
月明かり

なだらかな
平野に横たわるのは
拒絶の対象を忘れた、難破船
それはあまりに優しい
拒絶の眼だから
草むらの群生たちは
物音を立てず
風だけをまとって
海を学んでいる
遠く、
浅く、
海を学んでいる

残酷な狩りは
残酷ないたわりの中に生まれる
勝つも負けるも
至極平等な真実ならば
誰も、
介入してはならない
誰も手を貸してはならない
脚色も
口添えも
一切を捨てて
傍観者にすら成り得ない
誰も、
狩りの定義からは
逃れられない

遠吠えの森に
またひとつ、涙が
こぼれてしまったようだ

煙るしかない夜の言葉に
少なからずの同情を、胸に秘めて
咆哮たちは
互いにわずかに
踏みつけ合う
そうすることが尊いのだと
昔、賢者が語っていたと
湖面の三日月が
揺れているから
従順な
けものたちは
尾を揺らしながら
瞳の中に
疾走を
灯す




2014/11/06 (Thu)

[1311] 流転
詩人:千波 一也 [投票][編集]


太陽を分かつ、春秋の姉妹

その両隣には
冬がいて

夏は、瞳の中に
在る



月と月を結ぶのは
南北の、師弟

記憶を西方に託し

東方へ
祈る



極楽は生死、の合わせ鏡

火と水は
互いのうつしみ

金と木は共鳴の、同志



天地にわたる海の歌

右の爪には砂漠を
満たして

左爪には空を咲かせる

真正面には
星の座標

背中に負うのは土の声




2014/11/06 (Thu)
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