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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1260] アンコール
詩人:千波 一也 [投票][編集]

もう
あの船の行方なら
わたしの胸に描かれるしかありません

その
描きようの総てが許されるわけではなくて
それでも
描いていくしかなくて
ひとり
色をもたない潮風に
抱かれています


あなたが言葉にしなかったことも
あなたが
言葉にしたかったことも
こぼしてしまった
わたしです

それゆえ
波間にみえる一瞬は
もっとも近いかなたです


いつか
あなたを忘れる日が来たならば
それは悲しみの始まりなのだ、と
さらさらに渇いた砂つぶが囁きました

日付をもたないものたちが
結末めいて、音を立てました


さようなら、では
あまりにも易しすぎて
あまりにも整いすぎてしまいます

だからといって
代わりが見つかるはずもなく
ただただ身を置くばかりです

答などくれるはずもない
潮騒のかたわらで
ちぎれた時を
呼びながら



2014/03/16 (Sun)

[1259] 十年愛
詩人:千波 一也 [投票][編集]

十年前は
だれを好いていただろう

十年前は
どこに暮らしていただろう

一年、二年で気が変わり
三年、四年で空気が変わり

五年、六年、見た目が変わり
七年、八年、言葉が変わり

九年、十年、記憶が変わる


都合の悪いあれこれは
やさしいふうに手直しをして

都合が良いなら形を問わず
すべてこの身に引き寄せて

十年経てば
我が身がかわいい

それがおのずと他者にも及べば
はなまるだけど

十年愛は
我が身の実り

けなげな祈りを
抱えつつ


2014/03/16 (Sun)

[1258] 
詩人:千波 一也 [投票][編集]



反論がある、ってことは
温かいよね

ひねくれ者でも
あげ足取りでも

相手になってくれるだけ
感謝しなきゃね




雨のなかを、さ
わめきながら駆けぬけるのは
馬鹿馬鹿しいよね

いまさら
そんな歳でもないだろ、って
わらえてくるよね

わらい合えるよね




ひとりぼっちのため息は
嫌いじゃない

嫌いじゃない、けれど、

放りすぎたら
風邪をひく




蓋をしたくなる気持ちはわかる

距離をおきたい
気持ちもわかる

だけど
そののちに
後悔がうまれることも、わかる




天涯孤独の泣き虫なんて
あり得ないこと、と
思うのよ

おそらく
あんたの分が悪い

一直線じゃ
曲がりづらいもの



2014/03/16 (Sun)

[1257] 子守唄
詩人:千波 一也 [投票][編集]


愛の映らぬ鏡があろうか

愛無き涙も
愛無き悔いもないならば

愛の映らぬ鏡があろうか



その背がいかに重くとも
その背がいかに暗くとも
それを見据えるお前の眼だけは
お前をわかってくれるだろう



愛の響かぬ鏡があろうか

愛無き恨みも
愛無きつらみもないならば

愛の響かぬ鏡があろうか



2014/03/16 (Sun)

[1256] 影うた
詩人:千波 一也 [投票][編集]


幾重にも
連なってゆく
痛みの無言に慣れてしまう
その痛み

それは
誰にも明かせないから
誰もがみんな
重たく齢を
重ねる


褒美のような光の背には
忘れられ過ぎた美しい輪郭が
揺らめいている

幾重にも
歓びあって
揺らめいている


丁重に
差し障りのない物語を
憐れみながら

己もやがては
そこに身を置く


幾重にも
降り積もってゆく
白い穢れに清められてしまう
その漆黒

それは
誰にも見つからないから
誰もが小さな重みを
護る


2014/03/16 (Sun)

[1255] 姿なき海
詩人:千波 一也 [投票][編集]


穏やかな海  荒れ狂う、海

語らない海  激昂の海



揺りかごの海  黒い海



汚される海  奪う、海

果てのない海  唯一の海



渦を巻く海  平面の、海



こだまする海  推し量る海

寂寥の海  動乱の海



ほほ笑みの海  煙る海

地を削る海  円い海



空に伏す海  反逆の海



懐かしい海  悔恨の海

逃げ惑う海  純真の海



枯れてゆく海  かばう、海



雪を積む海  透明な海

包み込む海  縛る、海




遠浅の海  大口の海




童心の海  諦念の海

先へ往く海  戻す、海

紐解かれる海  裏の海



たどり着く海  消える海



名を持たぬ海  探す海

問答する海  鏡面の海

舵を取る海  崩落の海



見つめている海  にせものの、海



軟らかい海  鋼鉄の海

狙い撃つ、海  従順な海




輝かしい海  過去の、海




望まれる海  陰の海

新しい海  暗黙の海



迷い子の海  老いた、海



頑なな海  恥じる海



手厳しい海  母の海

譲らない、海  父の海


継がれてゆく海  瞬きの海





終わらない海  一粒の海

群れをなす海  孤高の海




番をする海  旅人の海

明け渡す海  閉じる、海



聞き分ける海  過ちの海


及ばない、海  巣立つ海


揃わない海  林立の海


恵まれた海  愚問の海




逆らわない海  諸刃の海

高貴なる海  世俗の海




企ての海  無策の、海

壮健なる海  飢餓の海




あたたかい海  幻の海

書物にある海  掌の海




鍵握る海  棄てる海

立ち止まる海  憩う海




目指される海  不意の海



完全なる海  推敲の海



美しい、海  姿なき海



2014/03/02 (Sun)

[1254] はんぶんこ
詩人:千波 一也 [投票][編集]

ぼくのよりきみのが多いなぁ
っていう争いは
とても大切

その争いが
大人になっても続くなら困るけど
争いのためのはんぶんこだと
困るけど





はんぶんこって いやだなぁ

だって
ぼくのが減るんだもん

でも
あのこがいないのは
もっといやだなぁ





やわらかいホットケーキを
はんぶんこ

少しだけかたい
ビスケットもはんぶんこ

でもね
ママをはんぶんこには
出来ないんだよ

パパもだめ

いいかい
出来ないことのあることを
やさしさ、と呼ぶんだよ

ぼくたちには
出来ないことのほうが
ずっとずっと多いんだ





正確に
はんぶんこ、する道具は必要ですか

寸分のたがいも許すまいとする熱は
凍傷をもたらす
災いです

冷たい道具の言いなりになんて
なりたくないです

あ、
もうちょっとナイフを右に走らせて
そう、そう、って
なんの話をしてましたっけ





ぼくのより きみのが多いなぁ
っていう争いは
とても大切

少なくもらう身はもちろん
多くもらってしまう身のせつなさも
順繰り順繰り
わかっていけるから





ねぇ、
きみの目の 右はなにを見ているの

左のほうでは
なにを見ているの

はんぶんこずつ
おんなじものを見ているのかな

それとも
まったくちがうものかな





この
足のしたの
ずーっとしたの国ではさ
まだ寝てるひとがいるんだって

ぼくらは起きているのにね
おかしいね

でも、
夜にはぼくらも
笑われてるかもしれないね

くすぐったい、ね





ぼくのより きみのが多いなぁ
っていう争いは
とても大切

つぎは上手に分かれるようにって
どんどんへたくそになれるから

上手に
上手に
ほほえみかたを
覚えてゆけるから





とつぜんですが問題です

目の前に
鍵と 神さまと フルーツとがあります

どれをだれと分けたら
良いでしょう

絵筆と
くじらと
キャンドルと

どうすれば
はんぶんこに出来るでしょう

2014/03/02 (Sun)

[1253] つぼみ
詩人:千波 一也 [投票][編集]

咲いたばかりの花の香を
たのしんだ人の数は知れないが
個々の名前もまた知れない


(図書室のカードには
(知らない名前が多すぎますが
(そんなことには慣れっこです
(不慣れであっても
(責めたりしません


いつか、の匂いを共有できたなら
それだけで満ちてゆくものがある
たとえ言葉はちがっても


(きみは、つぎに
(どんな本を読みたいのでしょう
(誰に向けるでもなく問うてみるけれど
(答なんかは要らないのです
(憩いにとっての害悪ですから


さくら、ひまわり、みずばしょう
すこしも疑わないで名前を呼べることの
誤りにまみれた純粋を、ときどき誇る

つくろうとしたって、ね
うまくはいかない結末が
笑顔そのものなのだから


(悲観しなくて良いのです
(楽観する必要も無いのです
(呼吸さえあるならば
(図書室は湿ってゆきますから
(紙の素材にぴたり、と添って


海原には海原の
高天原には高天原の
やさしい約束としての、透明な足跡がある


(ページはいつも待っています
(はじめての目も
(続きをめくる目も
(垣根などつくらずに
(平等な重みで待っています


なんとなく
得体の知れない春が心地よくて
まだまだ夢は終われない

歩き慣れたそぶりの
音や背中があふれるほどに
自覚する


(そういえば
(しおりには花が
(よく似合いますね
(香らないようで香ってやまないインクのお供には
(最適なのだと思わされます


つぎは、誰の順番なのだろう
いのいちばんに挙がる名前から
百番ほど後に出てくるそれを、想像してみる

ほんのりぬるい風たちに
いじわる未満のくしゃみを頂戴しながら
椅子にもたれて待ってみる


2014/03/02 (Sun)

[1252] 結婚
詩人:千波 一也 [投票][編集]

受けとめきれない言葉が在るのは
なんら不思議ではなく
すべての言葉を受けとめきれるつもりで
自らを削ぎ落としてしまう行為こそが
とても不思議で ただ哀しい

それなのに
まったく等しい哀しみを 図らずわたしはくり返す

(前述に隠れた虚偽を あなたはどこまで許せるだろうか

包丁という物をひとの柔肌に当てるとき
それはたいそう恐ろしく煌めくが
若菜をかるく刻むのも 背骨をやさしく除くのも
鋭利な刃物の所業であるから
時々おもう
鋭利な言葉もおそらくは 必要とされる光だと

(鋭利な刃を 自分に向けたことがある
(誰かに向けたこともある
(そして誰かに向けた刃は必ず自分に舞い戻る
(鋭利な物にすがる手を刃はよくよく知っている
(いつかは果てるこころも命も
(刃はよくよく見透かしている

ことほぎたいのは嘘ではない
ことほげないのも嘘ではない
ならば いかにして守れるだろうか
ほんとのことを ほんとの嘘を
嘘のほんとを

(この国の利点は 風をいくつも覚えられること
(そしてわたしの学びなど
(あなたのなかで幾つでも死んでしまうということ
(幾つでも生まれ変わるということ

叙事詩について あこがれたのはいつだったろう
涙のなかに月をみた時
空飛ぶものたちの雪にふれた時
穢れるものに波を聴いた時

時間は深い罠だと気がついた時

(すぐにでも窒息できるのに
(なぜだか人はそれがためには名を用いない
(おのれの名だけは用いない

指輪は 巧妙な形状をして
もろさが取り柄のような直線を囲う

なにか
漏れてはいけない秘密でもあるかのように
わたしたちはつい見とれてしまうけれど
そうでなければ美はあり得ない

幻さえもあり得なくなる

(始まりの知れない呪縛の底を照らす秘宝が言葉なら
(かくまう神話も言葉で然り

この世でいちばん冷たいことを語りたいのなら
ただただ黙れば それでいい

頑なな氷室の溶ける日が訪れて
おのれが願った冷たさよりも
その温かな仕草について
奪われゆくだろう
そっと

つながれていて良かったと
やがて静かに満ちるだろう

幸福の海のたゆたう言葉の音なき波に
契りを浸して

既婚者と
して

2014/03/02 (Sun)

[1251] 穀雨
詩人:千波 一也 [投票][編集]


まだまだ冷たい春風のなか
緑は空を探しはじめる

それがやがては
海のように満ちてゆくのを
なぜだかわたしは知っていて
そのことが
解く必要のない不可思議であることも
なぜだかわたしは
知っている


咲いたばかりの
小花をそっと摘み取って
陽射しの匂いか
風の匂いか
はっきりしないけれど
受けとめやすい懐かしいものを
気まぐれに嗅いでみる

わたしの指の匂いが混ざり
それはもう純粋ではないけれど
春風のなかに身を置くと
揺れるものすべてが
味方におもえて
ますますわたしは
気まぐれになる


ゆっくり立ち上がる頭上の空は
灰の色味を捨てている途中

それは
さながら
新しく燃えるための準備のようで
わたしは
わたしの恥ずべき饒舌に
さよならをしようと
空を聴く

侮蔑や
ねたみや
ののしる言葉を
こころ静かに
確かめながら


ちいさな緑に憩うしずくは
その身にかなう分だけを
映している

かしこい呼吸はそうやって
耳を
すませば
すぐそばにある

すぐそばで
無数に
降る


天気予報が
あしたは雨だと告げていた

きょうのわたしの足跡が
きれいに運ばれる絵を
鳥の背中に
わたしは
乗せて

微笑みかたを
思い出す


終わらないものへの歓びを
惜しまないわたしで在りたい

それはかならず
傷つき続けるけれど
雨が
きれいに
洗い流してくれるから
願いごとはいつも
優しい匂いに
満ちている

満ちて
いける


緑の海のはじまりのなか
わたしを知らない言葉をおもう

わたしが知らない言葉ではなく
わたしを知らない
言葉をおもう

雨の向こうへ
つながるように



2014/03/02 (Sun)
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