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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1290] パウダー・フルーツ
詩人:千波 一也 [投票][編集]


その果実には色がある

制約のもと
つかのま限りの色がある



その果実には形がある

どの角度でも
どの経過でも
思いのほかに柔軟な形がある



その果実には香りがある

己の性の欲望そのままに
香りがある

言い逃れの一切通じない香りがある



その果実には味わいがある

残忍で
卑怯で
不躾で
我儘な

耽美一色の味わいがある



その果実には名前がある

本当はどこにもない筈の
名前がある

なしえない所有を夢見るための
名前がある




2014/07/30 (Wed)

[1289] 最低な翼
詩人:千波 一也 [投票][編集]


約束、という言葉は
なにも運ばない

それを知りながら僕は
風になろうと
している

この手に負える
ちいさな結末だけを
連れて

都合のいい語りを
選ぼうとしている

ごめんね、涙たち

もう
昇ってお行き

最低な翼を
見限って



2014/07/30 (Wed)

[1288] 流星群
詩人:千波 一也 [投票][編集]


あてもなく夜空をさすと
ぼくはきまって
指をしまい忘れるから

わらっていたね

きみは
わらっていたね



続くのだと思った

ぼくらは
ずっと許されて

永遠が
見えるのだと思った



高台からの眺めは
きれいだね

きっと

手が届かないから
きれいなんだね

だから

ぼくたちも
きれい、だよね
きれいなままでいるよね

きっと



ぼくには
もう出来ないことだけど
叶えたい夢が
あるんだ

ぼくには
描かずにいられない
星たちがあるんだ

それがたとえ
わからないきみでも

もしかしたら
叶えているかも知れない
きみでも

もう
確かめようもない
ぼくだから

夜空をさすよ

だまって
さすよ



そこからも
見えていたらいいな

すくわれようとして
のぼり急ぐ
尾の
ひとつでも

すくいようのない訳じゃない
尾のひとつひとつたち、


見つけてくれたらいいな



悲しくなんかないから
ぼくは

悔やんでなんかないから

つらくなんかないから
大丈夫

だから、かな

きみには
泣いてほしくないんだ

それだけは
守っていてほしいんだ



流れていくよ
もうじき

めぐり続ける息吹が

翼に
木々に

水面に
石くれに

いのりを託して
託されて

つらなってゆくよ



ああ
とおい夜空だね

こんなにも
とおい夜空だったんだね

こんなふうなら
ぼくは

安心して帰れるよ

むかえてくれる
おおきな波のなかへ

安心して
帰ってゆけるよ



ありがとう、って

ただ
ありがとう、って

やさしさと
重みとが

通過をはじめるよ
ほら、




2014/07/30 (Wed)

[1287] 雪月花
詩人:千波 一也 [投票][編集]


わたしを生んだ
女をわたしは知らない

影も匂いも
どんな音を発するのかも
なにひとつ知らない



わたしを抱いて
わたしを褒めて

わたしを叱って
わたしを守って

わたしを
ここまで
育ててくれたのは
わたしの母だ

この世にただひとりの
わたしの母親だ



わたしを捨てた
女のことをおもうとき

わたしの母は
どんな気持ちで
わたしを子どもにしたのだろう、と

少しだけ寂しくなる



古いアルバムを
開けば

素直な笑顔と
素直な反抗と
素直な恥ずかしさと
素直なはしゃぎが
ならんでいる

なんと幸せな
家庭で育ったのだろうと
こころからおもう



わたしの戸籍を取ると
養母という言葉が
痛々しく
印字されていて

まったく覚えのない女の名前も
堂々と
印字されている



雪と月と花と
めぐりくるものたちは
母から教わった

雪と月と花と
うつくしいものたちの
おもてと裏とは
母から
巣立って
いつしか覚えた

けれど

雪、月、花、
たいせつな何かを
数え忘れている気がする




2014/07/30 (Wed)

[1286] 如月草
詩人:千波 一也 [投票][編集]


如月草をご存知ですか

たとえばそれは
荒野をわたる風のなか
ささやかに
桃いろに
揺られています

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
星座をたどる指のさき
あやふやに
紫いろに
染められています

まだまだ遠い春なれど
まだまだ灯せる言葉があるなら
そろそろ
眠りはほころびます

だれかの背をつたい
だれかの肩をつたい
だれかの髪をつたい
静かな包みは
静かに
静かに
ほどかれゆくことでしょう

如月草をご存知ですか

たとえばそれは
名もない駅のかたわらで
したたかに
銀色に
呼ばれています

たとえばそれは
疲れた瞳の水ぎわで
かたくなに
紺色に
潤わされています

老いも若きも男も女も
丸みも堅さも炎も氷も
みんな
ちがっているから
一様に
みんな
少しもちがわない

如月草をご存知ですか

よくよく
希望とまちがえられて
よくよく
祈りとまちがえられて
よくよく
懐古とまちがえられて

けれど
そんなまちがいの一つ一つに
きちんとお辞儀をしてくれる

それゆえ
誤りはなおさら募るばかりでも
季節がめぐれば
約束ごとのように匂いたつのです

一斉に
なおかつ静粛に

微笑まずにはいられない
むずかしさを
やさしく
従えて

はぐらかすつもりなど
微塵もはらまずに

手ほどきをする素振りなど
あまるほど漂わせて

だれの窓にも
だれの吐息にも
いつしか
そっと
根を張るのです

如月草をご存知ですか





2014/07/29 (Tue)

[1285] 空を飛べない魚たち
詩人:千波 一也 [投票][編集]

空を飛べない魚たちは
それを嘆くのかね


空を飛べない魚たちは
そもそもそれを
知るのかね

欲するのかね


空を飛べない魚たちは
空を飛べないのだろうかね
本当に

2014/07/29 (Tue)

[1284] 告白
詩人:千波 一也 [投票][編集]

冷めたグラスなら
白く、くもる

すこしの間

わたしの吐息で
すこしの間

白く
くもる

そこで

あなたを呼んで
みた

そこにはいない
いるはずも
ない

あなたの名前を
呼んでみた

グラスのなかに

わたしの吐息と
あなたの名前が
ひとつになって
いるみたい

だけど

白いくもりが消えたなら
なかったことに
なる

はじめから
なかったことだけど

もう、
どうしようもないくらい
なかったことに
なる



2014/07/29 (Tue)

[1283] 選択肢
詩人:千波 一也 [投票][編集]



言わない、っていう気持ちは
選択肢

だけど

言えない、っていう有り様は
選択肢にならないね

さかのぼれば
選択の末の有り様だと
わかるはずだと思うんだけど

選択肢にはならないね



2014/07/29 (Tue)

[1282] いつか、降る
詩人:千波 一也 [投票][編集]

いつか、降るだろう

雨とは呼べない
くるしい水や

雪とは呼べない
つらい花弁が

いつか、降るだろう

きっと
だれもが望む形は
思いがけずに
姿をかえて
しまう

おそろしいものたちと幸福は
些細にしか違わないのだろう

だれもが望む形は
だれもが忘れてしまえる形
だれもがかえてしまえる形

嘘も真実もなく
終わりも始まりもなく

だれもが平等に
描けてしまう
語れてしまう

だから、降るだろう

星とは呼べない
あわれな営み

月とは呼べない
うつくしい陰

こころ当たりはないか

きみに
きみの周りに
きみの周りの
きみに

鳥とは呼べない
閉じられた夢

風とは呼べない
偏重の記憶

いつか、降るだろう

憂いと妬みと自己愛と
逃れと責めと他人顔

頼みと縛りと自己愛と
秘匿と保守と他人顔

ひとつの国が
ひとつになることは
難しいことではない

固まり方さえ
問わないのなら
難しいことではない

けれど

涙とは呼べない
大粒な渦

嘘とは呼べない
周到な罠

いつか、降るだろう

いつか、と言わず
もうじき、
すぐにも、
落とされるかも知れない

慣れてしまえば良い、と
言えなくもない

完全には

だれも
完全には
道をたどれないまま

鏡とは呼べない
出来すぎた坂

己とは呼べない
出来すぎた虚ろ

このままでも
このままでなくても

それは
さほど意味をなさない

意味をなさない
差異ならば

いつか、降るだろう

いつか、必ず

いつか、疑いの余地もなく

いつか、だれにも平等に

降るだろう

伏すだろう

いつか、






2014/07/29 (Tue)

[1281] 冒険者たち
詩人:千波 一也 [投票][編集]


冒険者たちは
いつも渇いていて
雨や
波間に
漂いやすい

けれど
冒険者たちは
それらの雨や波間について
潤いだとは語らない

なかなかに認めない
強情さがある

その強情さが
自らの弱さを深めてしまうけれど
冒険者たちは
みていない

いや
みていないふりをして
わずかな辛抱に
わずかな辛抱の重なりに
耐えかねて
なおさら
渇いていく

そんな悪循環に
同情した者たちや
辟易した者たちや
共振した者たちや
陶酔した者たちが
また
新しく
冒険に出る

冒険者たちが先か
旅が先か

冒険者たちは
もちろんその答に拘らない

ただ
渇いている己のために
癒しを求めていく

永遠をかけても
満たされないかも知れない予感を
そっと包み隠しながら
冒険者たちは今日も
古びた地図を広げている



2014/07/29 (Tue)
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