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望月 ゆきの部屋  〜 新着順表示 〜


[354] 空の底
詩人:望月 ゆき [投票][編集]

かけおりた坂道のおわりには
ボーダー柄の、夏が
波のような顔をして
手をふっていた


それから、 と言ったあとの
あのひとの声が
ノイズにのまれて、ちらちらと
散ってしまったので
指先をすこしひたして
ていねいに
波のチューンを、あわせる


わたしたちに それから、があるとしたら
どこに続いているだろう
夏のはしっこを、ちらり、めくって
見えるものは、なに
わたしはそれだけを知りたがったけれど
あのひとはただ
困った顔で笑った


風は方向性をおしえない
今はまだ、空の底


かけおりた坂道のおわりには
ボーダー柄の、夏が
手をふりながら
波のような周波数で
さよなら、を くりかえしていた 


雲が、高いところを過ぎてゆく
空の底で
わたしは まぶしいくらいに子供だった

2005/07/03 (Sun)

[353] アンダンテ
詩人:望月 ゆき [投票][編集]

わたしは、ほんとうは楽譜なのです
と 告げたなら
音を鳴らしてくれるでしょうか
指をつまびいて
すこしだけ耳をすましてくれるでしょうか
それとも声で
わたしを世界へと放ってくれるでしょうか
すくなくともわたしは
あなただけを待っていました


ピリオド、のようなものがそこいらじゅうに
点在しているような、夜でした


ずうっとここにすわっていたのに
スタッカートではずんで、あなたは
おとといの晩
わたしの頭上を飛びこえて、今では
4小節ほど先の未来を生きています


西の空から伝うメトロノーム
かすかに、でもたしかに、振動する
あるく速さでね、
って
もどかしく背中をふるわす
そうして、4小節先の未来にいるあなたに
いつまでも、追いつけないまま


ピリオド、のようなものをつなぐと、それは
星座のようなものになり
あしたになったらあなたが
アンタレス辺りにきっといるよ、と
それだけ告げると白く消えていきました


やがて
五線譜のかなたから明けてゆく
レース模様の、朝



2005/06/19 (Sun)

[352] 空をみていた午後
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コンクリートの丸いもようは、踏んじゃだめよ
って、
しあわせになれないから
って、
きみが言ったとき
さっき
二度ほど踏んでしまったぼくは
ちょっと泣きそうになって、あわてて
声をだして笑った


丸いものが好きだと言うきみに
ビー玉をひろってきて
いくつもいくつも、あげた
きみはそれをテーブルの上に置いて
いつも眺めて微笑んだけれど
それはいつもテーブルの上にあったので
やがてきみに忘れられた


ぼくが何度 きみをひろってきても
きみは じっと、
ひとところにはいないので
いつまでたっても
きみを忘れることができない


ただしい距離で、世界が見渡せる
そんな気がして
丸椅子にすわって
ガラスのない窓から
空をみていた
午後


あしもとからわきあがる
発泡性の、さよなら


天井にぶつかってはふりそそぐ
丸いしずくが
ビー玉に似ていて
ぼくは、また
それを ひろいあつめる



2005/06/08 (Wed)

[351] クラクションが、鳴ってる
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はかりしれないほど
スィートな加速度で
ぼくたちは走っていたので
日々の円周ばかりを、何十回とまわり
あしたの記憶だけ
どこかに置いてきてしまった


クラクションが、鳴ってる


きみの左手のひとさしゆびに刺さった
数ミリのトゲ と
同じあやうさで
とどく


いつのまにか好きになってたんだ
って、
きみに話したそれは
たぶん嘘ではなかったけれど
今ならはっきりと、わかる
円周の途中の、あの点だった、

たちどまったとき、気づく
そうして、そのときも


クラクションは、鳴っていた
かさねた手と手のすきま
あるいは
かさならない、くちびるの温度
きみとぼくから
そう遠くない場所 で


おわってゆく方向性でしか
気づくことができない 
あしたに
目を、耳を、すまして
ぼくは赤いラークに火をつける


2005/06/04 (Sat)

[350] とおくに、
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 とおくに、なにかが見える景色が、すきです。

 とおくに、見えるなにかは、なに。

 とおくに、見えるのは、あなたの背中。

 とおくに、見えるのは、あなたの靴音。

 とおくに、見えるのは、あなたのこころ。

 とおくに、見えるのは、ただの、あなたのこころ。
 
 それだけ。



 とおくに、見えるから、好きだったのよ。


2005/06/01 (Wed)

[349] 行間の、過ごし方
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すすんでゆく先には 
行間が待っていて
いつも 立ちどまってしまう


深呼吸、する 
 ( ふかく、吸って、
 ( ゆっくり、吐いて、

ふりかえる
ふりかえって、深読みしたり
ふりかえって、泣いてみたり
する

つま先に目をやる
つま先にこつんとあたったものを、見る
つま先の対角線上の点で それを
うしろに、蹴る

空気の真ん中
酸素と、二酸化炭素を、入れかえる
わたしの小さな鼻腔と
半開きの、口

その空間が
一列であるか、二列であるか、
あるいは、
ということは、実はたいしたことではない
ようでいて、とても、重い

つま先をそこに踏み入れたとき
するべきことはたったの一つなのだろうと
たったのそれだけは知りながら
するべきたったの一つを見つけられないまま
呼吸だけ、やめない


そうしてわたしは
今も、行間にたちつくしている

2005/05/26 (Thu)

[348] とおい日の、ホライズン
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毎日が 
ずっと、遠浅だったらいいのに

って、言ったのは
あなただったか、わたしだったか、
もう わすれてしまった
うつろいやすいふたりだったから
ただ
手をつないだ

波が
いつまでも海と
わたしたちをへだてるので
泣きだしそうになってあわてて
さっき拾った小石を
堤防から捨てた
きっと かえってくるって
いたずらに、信じてた

おぼえていること
いないこと
つなぎあわせたら
流線型の、パッチワーク
すくわれるあしもと
ときどき沁みてくるのは、あのときの、なみだ
それとも

(毎日が、)
(ずっと、遠浅だったら、いいのに、) 

手をつないで
わたしたちはあるこう
ふりこみたいに
やわらかくゆれながら
きのうから、はみださないように

とおい日
つかめないままやりすごした
なにもかもが
すぐそこの、水平線のところに

2005/05/23 (Mon)

[347] あたりまえの、キス
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あたりまえの、キスを、ください


追いかけるたびに 
春はもう
ふりむきざまの、目くばせ
早足にからまるイヌフグリの、青
追いつかないのは
季節のせいなんかじゃ、ない、と


のばした指先でさがす
あたりまえのキスのゆくえ
目を閉じたときにふれるもの
ふれて、とおりすぎるものの
ゆくえ


キスする直前の、鼓動
ひじの先からつたわる、振動
あんなに、好きだった、のに、


まぶしい風にカーテンがひるがえると
向こう側の記憶がのぞく
そこが、部屋の内側か外側かは知らない
たしかなことといえば
あなたは
いつも内側にしかいられなくて


あなたは
さようなら、と同時にも
それができる人だった


2005/05/18 (Wed)

[346] 清算されてゆくかなしみに
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晩夏におとずれた出会いを、わたしはいとおしくてたまらなかった。

最初のデートでどこへ行ったかも忘れてしまうくらい、あなたのことだけを見ていたので、わたしたちにはアルバムをつくる時間さえもなかった。
今にして思えばそれはある意味正しい恋の仕方だったかもしれない。
わたしたちの流れてきた時間は、残しておいてあとで懐かしむためのものでもなければ、水槽の中に溶かして、もう二度とさがせないようにする必要も、なかった。
あなたのどこにひかれたのだろうと考えると、たぶん、笑ったときの口だった。数ミリ、はじっこが持ち上がる。
あなたはお腹の底から笑うことを知らないまま大人になったような人だった。それでもときどき、わたしがのべつまくなししゃべり続けて呼吸が苦しくなっているのを見ると、くすくすと笑ってくれたので、いつだってわたしは必死におしゃべりを続けた。
あなたの見知らぬ恋の話や、すきな音楽のことなんかを。
わたしはあなたがしてくれた見たこともないあなたの家族の話をきいているのがとても好きだった。


ふざけて、笑って、ころがって、高いとこから飛んだりもしたけど、それはただそのときの、よかったときの、わたしたちだった。
泣いたり、傷つけたり、だましたり、不意打ちのキスをしたりもしたけど、それは粉になって水槽の中に溶けて、消えた。


夢はいつか現実に清算されてゆくものだと、わたしがあなたに言ったとき、あなたが少し笑ったから、わたしはほんとうは泣きたかった。
かなしみもいつか、わたしの未来に清算されてゆくのだと、だれかがわたしに教えてくれたら、いい。



昨日、熱帯魚を一匹買ってきて、水槽に入れた。


ひらひらと揺れる背びれのうす紫を見ていたら、涙がこぼれた。



2005/05/07 (Sat)

[345] エレメント
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地球があと100kmのところで終わっている
と知っても
きみは歩いてゆくだろうか
靴ひものことなんて気にしてる場合ではない


見渡しても、海
はてしなく、海
そのかぎりの海の地球から、のぼる
朝陽を見たとして
きみは、迷わず(思わず、)叫ぶだろうか
 「うつくしい!」
その声はなににもはねかえらず
水面を通過して沈んでゆく


大量生産のぼくたちは今
とんでもない過ちを犯しながら
人間みたいに暮らしている
地球みたいなところで
ぼくたちを造りあげたのは、自然なのだ
と、 
自然が造るものは、いつも完璧なのだ
と、あの頃
大人たちは口をそろえて言ったんだ
そうだろう?


木の葉が 風を受けて さらさらと
上手に、重なり、すれあいながら
太陽を浴びる
木陰には一昨日できた水たまりがまだ渇かず
百舌がそれを飲みにおりる
その間にも人間は
地球のことばかり考えながら
二酸化炭素だけを増やしている
そうだろう?


そうなんだろう?

2005/05/07 (Sat)
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