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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[658] しずくは波になる
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なにごとも無かったように朝は訪れて
  
さかなたちは
  
まだ走ったことのない空を
  
みあげてひかる
  
ひとつの大きなもののなかを泳ぎながら


  
空から枝葉へ 
  
枝葉からみなもへ
  
しずかなつたわりはけさもこぼれて
  
きらめく波を走らせてゆく
  
それは
  
幾百幾千の
  
ねむりにつく些細なしずくたちの
  
幾百幾千のめざめのしらべ


  
ひとつのなかから無限はうまれる
  
無限をほどけばひとつにあたる

  
いつかしずくは流れを為してゆくように




  
愛から鎖へ 夢から異国へ
  
夏から沼へ 笑顔からつるぎへ
  
記憶の日付が増えてゆくそのたびに
  
しずくは


  
窓辺に桟橋に
  
レンガに丘に
  
懐かしいときが降りそそぐ

  
記憶の日付が増えてゆくそのたびに
  
しずくは
  
こぼれて 

波になる



  
手のつなぎにおぼえる温もりのような
  
その輪をなぞり
  
たどり

  
たやすく忘れてしまえるような
  
些細なものをなぞり
  
たどり
  
波は絶えずにわたりゆく

  
しずくは波になる


  
しずくは波になる


2006/09/09 (Sat)

[659] 暑い日だった
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暑い日だった


目覚めのベッドは僕のにおいで湿ってた


喉がカラカラだった

コップの水をかるく舐めたら

少し、ぬるい



鏡に映るはだかのおとこ


汗と 鎖骨と 血管と

求め足りない、ような唇の濡れ具合と



君を抱いた後みたいって思った



暑い日だった



2006/09/12 (Tue)

[660] 向日葵の頃
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覚えていますか あの国道を


場所のことではなく

名前のことではなく

もう二度と通ることのない

あの

国道のことです



向日葵の頃には

とても眩しいものでした

容赦のない陽射しとは違って

まっすぐに咲き誇るものですから

とても

眩しいものでした


覚えていますか



いまならば

通りすがりの他人のように

まるで なんにも知らないように

咲き誇っていた想いたちの眩しさが

見えたりするものです

可笑しいですね

写真の一つも無いというのに



もうまもなく向日葵の頃です



あいにくと

自分の姿は見えないもので

代わりにあなたを案じてみます



いつか

あの国道をもう一度走るとき

それは すっかり新しい景色へと

変わることでしょうから

軽く、

軽く尋ねてみたいのです



覚えていますか あの国道を



2006/09/12 (Tue)

[661] 絵葉書など
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宛てたい心があります


傍目には

いまさらでしょうが

いいえ

いまだからこそ



伝えたいことは簡単なのに

前置きが長すぎて

床に散る便箋は増えるばかり

傍目には

綺麗な足元かも知れませんね



もう何度目かのペンを走らせながら

あすは何処へ赴こうかと

ぼんやり思います



きのう

はじめて風景写真を撮りました

それは

とても綺麗で

こんなふうに微笑んでいたのですね

私たちは



あすにでも絵葉書など差し出そうかと


手紙は

終わりそうにもないし

写真は

なんだか筒抜けになりそうで

それゆえに

私の居所とは全く関係の無い

けれども

私のこのみを如実に表すような

絵葉書など



あなたは

隈(くま)無く探してくれるでしょうか

約束はなくとも

健気にきっと

あなたなら

私を




優しさは思い出となるにはまだ遠く

そんな心を隠すように

絵葉書など


たとえ見透かされても




宛名は美しく綴ります

指先に

ちからを込めて


美しく


2006/09/12 (Tue)

[662] メイプル・ハープ
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うやむやに熔けてしまっていませんか

その夕暮れに


指揮棒に従うことで

いくつの雑音を聞かずに済みましたか



なつかしい歌たちに包まれたい日があります

拒みたい日もあります

狂いの無いものたちだけと

はやく一緒に暮らしたいものです



知っておいでですか

譜面に触れるためには

特別な能力が必要不可欠だとか

知っておいでですか



美しいがゆえに 捨てるものがあり

捨てるがゆえに 燃えるものがあり

燃えるがゆえに 移ろうものがあり

移ろうがゆえに 増えるものがあり


いくつの和音を聞き逃してきましたか




触れているような

そうではないような


永遠というものは

そこで眠っているような気がするのです

じぶんだけ

すやすや 





奏でるよりも聞き惚れている近況の

わたしの理由の

はんぶんは

そんなところに在ったりします



残りのはんぶんは

曖昧なままにしておきますね

あなたの

その指先のために、



2006/09/12 (Tue)

[663] 群青だより
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飛ばない鳥がいたとして

飛べない鳥はいないでしょう

それとも

逆の語りの方がお肌に合いますか



ひとつ許せば

色は濃く

ひとつ拒めば

尚更に濃く

それが

青というものです

さきほどの語りのようには

是非を問うたりいたしません

それが青というものですから




雲は

さまざまに形を移ろいますが

あれはいわゆる群れですか

それとも

孤高と呼ばれるものですか



蜜をもとめる蝶が、ほら
 
ひらひら 

きらきら

たくさんの花のなかを

漂っていますね

いそいそ 
 
ひそひそ
 
ふわ ふるる


音に

こだわり

遊ばれて

とっても素敵な季節です




不慣れなことは困りもの

慣れすぎることも

困りもの


そろそろ語りをやめようかと

暗に示しているのですが

お気づきですか



半端ものならば

半端ものなりの

端正な御顔をたたえて下さいな



それではみなさま

ごきげんよう


或いは

すずしく

こんにちは



2006/09/12 (Tue)

[664] 夜伽歌
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蒼く枯れるまで傍にいて下さい



たなびく煙に ほそめるひとみは

可憐な強さを匿(かくま)って

夜風に つめは うるおいながら

狡猾(こうかつ)な よわさに長けてゆきます


そら 、笑みの波紋が にじをさす




おぼろな橋の彼方から

数えなさい、と諭(さと)されています

今宵も



これは 襲来の類なのでしょうか

そろそろ 衝動に駆られてしまいそうです

どうか

壊す、などという言葉を選ばずに



紅く透けるまで傍にいて下さい




万葉のしらべは

黒髪を梳く櫛の音(ね)に よく馴染み

気紛れに仰ぐ三日月は

黒いひとみに 

映えて

久し 






闇夜を満たす つとめは

灯火に 委ねてしまいましょう


さすれば、ほら

語り部の名に 固執することなく

すべに 甘んじてゆける気がいたします



それで良いのです


かなうもの と

かなわぬもの とを より分けず

舌先やわらかく 発音いたしましょう

いろいろ、 と


耳元ちかく で



2006/09/12 (Tue)

[665] 空を想う魚
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晴れのち曇り 雨 みぞれ


空のほんとは

どの日でしょうか



わたしたちには

空を知るすべが少なくて

たまたま覗いたその日の空を

強くこころに

留めがち

です



吹雪 大風 稲光



海の底には草たちが豊富に揺れていて

少しずつかじっては

物思いに耽っております

もいちど空に会いにゆこうか、と

揺られております

昨日も

今日も

たぶん

明日も



水色 オレンジ 灰の白



空のほんとは

どの日でしょうか


2006/09/12 (Tue)

[666] 海の匂い
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昆布の匂いがする、と

おんなの言うままに

おとこはそっと確かめてみる



漁師町で育ったおんなは

季節ごとの海の匂いを

知っている



おとこは

ただなんとなく海がすき、という

その

曖昧さに恥じらいながら

闇の深い方へと顔を向ける

海の匂いを嗅ぐために

おんなに隠れて

笑むために



  わずかな汗と吐息と潮風

  タバコとガムと微かな香水



狭い車内はいつにも増して狭く

開け放った窓からは

遠く

霧笛が聞こえ来る


どの舟のために

あの霧笛は鳴っていたのだろう



      BGMは覚えていない

      触れあう唇の柔らかな音と
      
      つかのま離れるその音の
      
      連続と

      指先と首筋と背骨の手触りと

      鈍い光を放っていた缶コーヒーの
      
      おぼろな形と銘柄と

      そういうものを覚えている


      果てしない世界の片隅で
      
      ふたりはおなじ
      
      海だった




湿度の高い眠りのよるに

海の匂いがよみがえる



寄せては返す波たちの

在るべき場所の

海の匂いがよみがえる



2006/09/12 (Tue)

[667] 鳥のうた
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一羽の鳥が空をゆく


わたしには

その背中が見えない



いつか

図鑑で眺めたはずの

おぼろな記憶を手がかりに

爪の先ほどの

空ゆく姿を

わたしは

何倍にも引き伸ばす


こんな日に限って陽射しが強い




一羽の鳥が空をゆく


叶うのならば

わたしもその横をゆきたいのだが

空は高い

いや、

高さなどのせいではなく

空はやはり

空以外のなにものでもないのだから

わたしが届く理由は

一つもないのだ




見上げる瞳は夢の放物線



虹の架からない空に

絵筆はいくつも許されて

いかにも満足そうに

一羽の鳥が空をゆく


わたしが放った夢のあとさきを

鳥はどこまで見届けただろう




鳥の言葉を知らないこの耳は

探しに往け、と

ささやきを聴く

わたしの声の

再生の




ひとつふたつと旋回の後

一羽の鳥は去(い)ってしまった



背中はついに知らず終(じま)い



2006/09/12 (Tue)
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