詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
濡れそぼつ紫陽花を
傘の中から覗いたわたし
やがて
雨が上がれば
水滴さえも花にして
紫陽花は凛と
咲くのだろう
濡れることを厭うわたしは
濡れる役目を傘に負わせて
柄を握る手に力を込める
わたしは
何を守るのだろう
わたしは何を守れるのだろう
例えば
もうじき注ぐであろう陽射しの中で
望みのはずの陽射しの中で
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ようやく
二本足で歩きはじめた我が子が
草はらで不意にしゃがみこみ
石ころや小枝を見つめている
あるいは
石ころや小枝のほうから
見つめてきたのだろうか
何かに染まりすぎた大人には解せない
やわらかで唐突な音声をもって
我が子は語りはじめる
砂つぶにも落ち葉にも
向こうの水にも風向きにも
我が子は語りはじめる
至極
神秘に真摯に無限と対峙して
我が子は宇宙とつながっている
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しずくの国にも
ささやかながら法はある
しずくの可憐を守るに十分な
慎ましい法がある
しずくの法は
しずくに在らねばわからない
それゆえに
しずくの法は
しずくによって綻びもする
しずくの抱く光には
やさしくも脆い陰たちがある
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夏至が過ぎた、と思うと
こころが細る
なにも
急激に夜が押し寄せるわけではないし
夏本番を迎えてさえいないのに
こころは焦る
やりたいことと
やらねばならぬことと
両方を隔てなく在らせてくれるような
陽射しの寡黙さが好きだ
形を持たずとも
輪郭を覚えさせられるような
一瞬たちの
無言の明滅が好きだ
わたしの本質は
あまりにも夏だったのだろう
幻も約束も優しさも
影も時間も愛しさも
抱き締めずにはいられない
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マイナスの評価を聞いて
なぁんだ、と高をくくる
マイナスの噂を聞いて
ほんとかしら、と疑いをもつ
どちらの態度も自由だけれど
その結果としてのわたしに
マイナス表示が貼られやしないかと
マイナス気味に思案する
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
綴った言葉は
ひとの目に留まったときが旬
綴っている間が旬
口にした言葉は
ひとの耳をかすめたときが旬
数年の後に思い起こすときが旬
秘めた言葉は
ひとに明かされないその間が旬
ひとに明かす決意を固めたときが旬
今このときも昔もあすも
言葉の旬
見えるも見えぬも
聞かすも黙すも
言葉の旬
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
言葉の鎧を貫きたければ
言葉の剣を用いなさい
言葉の剣を防ぎたければ
言葉の鎧を用いなさい
どちらが正しい、どちらも正しい
どちらが強い、どちらも脆い
どちらが尊い、どちらも貧しい
どちらが寂しい、どちらも熱い
言葉の壁を崩したければ
言葉の砲を用いなさい
言葉の砲を防ぎたければ
言葉の壁を用いなさい
堂々巡りに辟易するまで
傾く軸に
定まる優劣に
瞬きの間の勝敗に
こころ揺らさず漂えるまで
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
愛想の悪い
コンビニ店員がいて
時々ムッとするけれど
それは私の勝手な
お客さま感情なのかも知れない
缶コーヒーを
一本買ったくらいで
「こっちは金を払ってんだぞ」
って
偉そうに振る舞いたくなる
お客さま感情なのかも知れない
愛想の悪いニイちゃんが
ばあちゃんの荷物運びを手伝っていたりする
愛想の悪いネエちゃんも
子連れママを気遣って通行していたりする
ぞんざいな釣り銭の渡し方に
少しムッとしつつ
この店員も
どこかのホテルやファミレスなんかでは
ひとりの客なんだよな、って
ひとり、胸のうちでボソボソ言いながら
ひとりの客であるはずの私は
客である前に
何者に映っているのだろうって
気になった
もちろん
聞けるわけなんかないけどね
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
いわゆる春、には
飽きたので
エンゼルなどを植えました
やがて
捨ておけぬ腐敗が
たち込めることでしょう
そうして
悔いを味わうでしょう
ほんものの春、です
感じたいのは
目を逸らせない
いちずな春、です
暮らしのなかに在るべきものは
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
きつく、きつく、したら
壊れてしまうかもしれないね
って
胸のうちで微笑み合いながら
重なりあう
雪の
はずだった全ての飾りは
やわらかな音のなか
硬質な匂いの
一滴となり、
主をはなれた一滴は
やがて孤高にうたいはじめる
震えて、ひたむきに、
たとえ忘れ去られても
きつく
きつく
その一瞬の永遠を