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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1330] 紫陽花
詩人:千波 一也 [投票][編集]



濡れそぼつ紫陽花を
傘の中から覗いたわたし

やがて
雨が上がれば
水滴さえも花にして
紫陽花は凛と
咲くのだろう

濡れることを厭うわたしは
濡れる役目を傘に負わせて
柄を握る手に力を込める

わたしは
何を守るのだろう
わたしは何を守れるのだろう

例えば
もうじき注ぐであろう陽射しの中で

望みのはずの陽射しの中で


2015/09/21 (Mon)

[1329] 接続
詩人:千波 一也 [投票][編集]


ようやく
二本足で歩きはじめた我が子が
草はらで不意にしゃがみこみ
石ころや小枝を見つめている

あるいは
石ころや小枝のほうから
見つめてきたのだろうか

何かに染まりすぎた大人には解せない
やわらかで唐突な音声をもって
我が子は語りはじめる

砂つぶにも落ち葉にも
向こうの水にも風向きにも
我が子は語りはじめる

至極
神秘に真摯に無限と対峙して
我が子は宇宙とつながっている



2015/09/21 (Mon)

[1328] しずくの国
詩人:千波 一也 [投票][編集]


しずくの国にも
ささやかながら法はある

しずくの可憐を守るに十分な
慎ましい法がある

しずくの法は
しずくに在らねばわからない
それゆえに
しずくの法は
しずくによって綻びもする

しずくの抱く光には
やさしくも脆い陰たちがある



2015/09/21 (Mon)

[1327] あまりにも夏
詩人:千波 一也 [投票][編集]






夏至が過ぎた、と思うと
こころが細る

なにも
急激に夜が押し寄せるわけではないし
夏本番を迎えてさえいないのに
こころは焦る

やりたいことと
やらねばならぬことと
両方を隔てなく在らせてくれるような
陽射しの寡黙さが好きだ

形を持たずとも
輪郭を覚えさせられるような
一瞬たちの
無言の明滅が好きだ

わたしの本質は
あまりにも夏だったのだろう

幻も約束も優しさも
影も時間も愛しさも
抱き締めずにはいられない


2015/09/21 (Mon)

[1326] マイナス表示
詩人:千波 一也 [投票][編集]




マイナスの評価を聞いて
なぁんだ、と高をくくる

マイナスの噂を聞いて
ほんとかしら、と疑いをもつ

どちらの態度も自由だけれど
その結果としてのわたしに
マイナス表示が貼られやしないかと
マイナス気味に思案する




2015/09/21 (Mon)

[1325] 言葉の旬
詩人:千波 一也 [投票][編集]



綴った言葉は
ひとの目に留まったときが旬
綴っている間が旬


口にした言葉は
ひとの耳をかすめたときが旬
数年の後に思い起こすときが旬


秘めた言葉は
ひとに明かされないその間が旬
ひとに明かす決意を固めたときが旬


今このときも昔もあすも
言葉の旬

見えるも見えぬも
聞かすも黙すも
言葉の旬




2015/09/21 (Mon)

[1324] 資質
詩人:千波 一也 [投票][編集]



言葉の鎧を貫きたければ
言葉の剣を用いなさい

言葉の剣を防ぎたければ
言葉の鎧を用いなさい

どちらが正しい、どちらも正しい
どちらが強い、どちらも脆い
どちらが尊い、どちらも貧しい
どちらが寂しい、どちらも熱い

言葉の壁を崩したければ
言葉の砲を用いなさい

言葉の砲を防ぎたければ
言葉の壁を用いなさい

堂々巡りに辟易するまで

傾く軸に
定まる優劣に
瞬きの間の勝敗に
こころ揺らさず漂えるまで




2015/09/21 (Mon)

[1323] お客さま
詩人:千波 一也 [投票][編集]




愛想の悪い
コンビニ店員がいて
時々ムッとするけれど
それは私の勝手な
お客さま感情なのかも知れない
缶コーヒーを
一本買ったくらいで
「こっちは金を払ってんだぞ」
って
偉そうに振る舞いたくなる
お客さま感情なのかも知れない

愛想の悪いニイちゃんが
ばあちゃんの荷物運びを手伝っていたりする
愛想の悪いネエちゃんも
子連れママを気遣って通行していたりする

ぞんざいな釣り銭の渡し方に
少しムッとしつつ
この店員も
どこかのホテルやファミレスなんかでは
ひとりの客なんだよな、って

ひとり、胸のうちでボソボソ言いながら
ひとりの客であるはずの私は
客である前に
何者に映っているのだろうって
気になった

もちろん
聞けるわけなんかないけどね













2015/09/21 (Mon)

[1322] ガーデニング
詩人:千波 一也 [投票][編集]






いわゆる春、には
飽きたので

エンゼルなどを植えました

やがて
捨ておけぬ腐敗が
たち込めることでしょう

そうして
悔いを味わうでしょう

ほんものの春、です
感じたいのは

目を逸らせない
いちずな春、です
暮らしのなかに在るべきものは












2015/09/21 (Mon)

[1321] 極寒結晶
詩人:千波 一也 [投票][編集]




きつく、きつく、したら
壊れてしまうかもしれないね
って
胸のうちで微笑み合いながら
重なりあう

雪の
はずだった全ての飾りは
やわらかな音のなか
硬質な匂いの
一滴となり、

主をはなれた一滴は
やがて孤高にうたいはじめる

震えて、ひたむきに、
たとえ忘れ去られても
きつく
きつく
その一瞬の永遠を










2015/09/21 (Mon)
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