詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
演台に
原稿用紙を広げ
子どもたちは声の限りに叫ぶ
「笑顔の
あふれる町にしませんか」
「あなたの近くに
寂しがっている人や
弱っている人はいませんか」
「みんなで
助け合っていきませんか」
「世界には
飢えに苦しむ人たちがいるのです
地雷におびえる人が
いるのです」
世の中や
身のまわりについての
疑問や意見を
子どもたちは
訴える
「ゴミの
ポイ捨てをやめませんか」
「絶滅の危機に瀕している
動植物を守りましょう」
「ぼくの両親は
毎日忙しそうに働いています
不況だから、仕方がないそうです」
「愛する、って
どういう意味ですか
日常でよく聞くけれど
わたしにはよくわかりません」
子どもの原稿の出来映えに
聴衆は拍手を送り
審査員は順位を
決める
だがしかし
このようなことどもを
子どもに語らせて良いのか
子どもには
もっと
明るい言葉を
語らせてやるべきではないのか
「ぼくの、わたしの、
主張コンクール」
ステージ上では
いままさに
表彰式が
執り行われて
楯やら
賞状やらを
子どもは受け取っていく
頑張ったことは確かだが
努力したのは確かだが
その
何度読んだかわからない
ぼろぼろの原稿用紙を見るほどに
子どもの
ひたむきさの
向かう方向が
違っているように
思えてならなくて
子どもの宝、は
なんだろう
子どもに
与えたいもの、は
なんだろう
たぶんに
無邪気で
精いっぱいに
くだらないあこがれを
走っていく
そんな
いつかの自分を
思い返しながら
会場の
みごとな印字の横断幕を
じっと見ていた
じっと
見ていた
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言いたい放題
言われてしまった
でも、
自分はたしかに大した器じゃない
けれど、
大した関わりもない人が
たぶんに狭い了見で
よくもまあ
あんなに細々
あんなに執拗に
言えたものだ、と
いささか気分が悪かった
とはいえ、
自分の知らない世界のことは
好き勝手に語れるものだし
とやかく言いたくなるのも
わかる気がするし
自分も
どこかで
同じような言葉を
ばらまいていた可能性だってある
だから、
深く考えるのは止そうと思って
その場はとりあえず抑えてた
それから、
おまえの家で飲み直し
自分と同じくらい言われてしまった
おまえの家で飲み直し
おまえはおまえのことよりも
わたしのことで怒っていたね
わたしのことを知らない奴らが
「なんであんなことを言うんだ」って
怒っていたね
いつか、
おまえもわたしもいい歳になったなら
きっと何かしらの示唆を与えるつもりで
偉そうなことを誰かに言ってしまうかも知れない
それはそれで必要なことだとは思うけれど
今日みたいにさ
理不尽な思いをさ
させてしまうような大人にはならないことを
約束しよう
おまえと飲む酒がいつまで経っても
わたしを未熟に酔わせるものであるように、と
わたしは願うよ
いつまで経っても
やがて、
おまえもわたしも離ればなれになる日がくる
こういう商売だからね
仕方がないけれどね
でもさ
だからなおさら思うんだ
おまえはわたしの
戦友だ、って
ただ、
戦う、といっても
がむしゃらに無鉄砲なわけじゃない
信じるものに向かって突き進もうとすること
それが
おまえとわたしの戦いだから
おまえが汚れたら 汚れそうになったなら
容赦なくわたしは撃つ
おまえもわたしに
そうであれ
言いたい放題 言われてしまった
その悔しさが
なにゆえの経緯で生まれるのかで
人それぞれの道筋がわかるから
わたしは
おまえに会えて良かった
難しい時代
難しい土地柄なんて
見映えのいい口実はたくさんあるけれど
そんな賢さが
人間の長所だなんて哀しすぎるから
戦友よ
おまえとわたしで打破しよう
同じ思いがもう二度と
誰の胸にも染みないように
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
この手が
届かずにおわった物事ほど
忘れがたいのは
なぜだろう
それゆえか
届いたつもりの物事さえも
本当は
届いてなど
いなかったのではないか、と
思えてしまう
本当、の
意味するところを
解せないまま
夢の
歩道の
険しくなるさまに
ふと
立ち止まり
日々を吹きわたる風は
敵ではないし
味方でも
ない
たとえば
このからだが
眠りを必要とするように
自然な
起点の方角へ
風は
月日を
吹きわたるもの
そうして夢は
はざまに
灯る
始まりも
終わりも
知れず
夢は
はざまに
灯る
守ることと
守られることとの
違いはなんだろうか
ゆりかごを
揺らすものにも
ゆりかごは
必ず
あって
そのゆりかごを揺らすものにも
いつくしみは
必ず
あって
見あげた空の
もっと向こうに
夢を
託すとき
見えないすべて
届かないすべては
よりいっそう
美しくなる
思いの
みちすじは
めぐりめぐって
遠くもあるし
近くもあると
ときどき
気がつく
誤ることは
いのちの務めで
それを
正すところから
あらたな誤りは生まれ
いのちは
続く
だとすれば
己のなし得ることは
まだまだあるから
伝えていよう
未熟な
熱を
やすらぐことも
危ういことも
だれかの
夢の
ゆりかごに
なる
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ひよこを食べる猫がいて
あるときひよこが
噛みついた
それからひよこは
猫を食べたり
ときどき親を
食べたりも
する
※
ひよこをだます猫がいて
おかげでひよこは
言葉を覚えた
周りと少し
意味のちがう
言葉がひよこに
染みついた
※
ひよこを育てた猫がいて
ひよこはそこに
ゆめを見た
ゆめ見たひよこの中からは
画家がうまれて
詩人がうまれて
やがて
それらは
芸術となり
貴族のひよこがあらわれた
ゆめの形は、
はじめての
ゆめの形は
ゆっくり
ゆっくり
さびしくなった
やさしくなった
※
ひよこは空を飛びたくて
小さく小さく
願い続けた
それゆえひよこは
いまだに小さく
けれど絶えずに
うまれ続ける
自由な羽毛の
きいろは
ひかり
ふわふわ
自由な空をゆく
※
ひよこは空を知りたくて
かなたの自分を
思い描いた
その行いが
ひとつの翼であることを
ぽつり、と広く
笑う庭から
※
ひよこはいつも
ひよこであるのに
それが意味するところは
ときどき難しい
やさしくなくては
ダメかもしれない
やさしいだけでも
ダメかもしれない
ひよこは
ひよこ
いつもの、
いつもどおりのひよこ
だからきっと
簡単には間違えないし
簡単には見つからない
※
ひよこを語るひとがいて
ひよこはひよこを
やめられない
代わりにこっそり
逃げたりしても
ひよこは
ひよこを
やめられない
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それなりの
背丈と重みとがあるわたしに
自動扉は開いてゆく
容易に
開いてくれることが
当然でなければならない、と
わたしもすっかり
慣れてしまって
背後で閉じられる
自動扉の気配のことは
それとなく聞いている
みんな同じはずだから
ひとつの音、として溢れかえらせて
わたしはすっかり
慣れている
・
「声にはしないことが自然と増えて、それでも
傷つくことを互いに幾つも数えてきたから、
素知らぬふりで、あたたかく共有し合えて、
伝わるものは必ずあるよね。そういうことを
信じていてもいいはずだよね。流されても、
忘れられても、思い出すことができるから。
それがわたしたちにある、大切な場所だから
小さくて小さすぎて、図らずも、失いかけて
急いでしまうけれど。みんな、みんな、
・
」
ときどき
ひとのこころの行き先が終われずにいる
機械、という言葉そのものが
直らない日の
片隅で
・
自動扉のその先に
いくつのわたしが消えるだろうか
向かう場所などなんにも知らず
使い古すこと、さえ
失いかけて
・
それなりの
昔と未来とがあるわたしに
閉じられたまま扉は開く
やさしく、
自動に
聡明に、
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だまされることばかり
気にかけて
誰かを
だますことには
疎いものです
それなりに
気に病むのだと
難しい顔を見せるのも
大人のたしなみです
使いこなすべき
道具です
過不足なく
適度にどうぞ
何か一つでも
気にいらないときは
そのすべてを
否定します
丁寧に包まれたままの
小箱が
わかりやすく
踏みつけられます
表も裏も
はっきりとして
それは確かに
丁寧です
拒む者への
目線ひとつも
変わらぬ道理で
悪を討つためではなく
悪を生むがための
正義もあります
目的よりも
結果が先ですので
まずは綺麗に
なるのです
器量も技量も持たぬまま
誰もが受身になるのです
熟慮せぬことの
未熟さを
高く
高く
歌いあげて
自らのなぐさめを
ほまれに
替えて
流行最前線、
お見逃し
お聞き逃しの無きように
敏感ですか
その言葉の意味よりも
お上手ですか
素敵でいらっしゃいますか
その
表すところの様相よりも
誰よりも
愛を知っています
未来を知っています
ひとこと口にするだけで
何もかもが
手に入ったような
心地になります
とはいえ
その真実を
知ってしまうことは
猛毒ですからご注意を
敵だとか
味方だとか
ほんとうの区別が無いのなら
ことさらに
ご注意を
移り変わりは
世の常です
流行最前線、
わたしは次回
何を伝えることでしょう
わかるような
わからないような
そんな感触も同様に
この報告の
一部です
最後の最後の本音です
伝わります
か
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きっと
模倣にすぎない涙です
人づてに
色づけされる涙です
やがては
無かったことになる
涙です
空へと昇り
空から下りなおす
涙です
だれも
所有のかなわぬ涙です
形をもたない
涙です
そっと
源をまもる涙です
えいえんに
巡り続ける涙です
ときに奪われ
ときに奪い取る
涙です
じっと
待つ身をうつす涙です
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
かなしみは
凍てついたりしないから
いつまで経っても
わたしは
楽になれずに
ひどく体温をうばわれる
硬いものなら
落としてしまえば終わりにできる
手から放して
決別できる
するどい痛みを伴う軟らかさには
願わぬ再会ばかりが叶うから
潮騒の語りが耳に届く
少しだけ
解かれるようにして
耳に
届く
もう
衝動なんて抱かない
ためらうことも
ままならないのに
どんな身動きができようか