詩人:清彦 | [投票][編集] |
意味もなく、あてもなく
真理もなく、もはや
求めることさえ無き
漂う海月よ
海の流れに逆らわず
ぼんやりと輝く神秘
君は謎に満ちている
君は私の憧れだ
例えるなら君は
風や雲や火のようだ
善も悪もきっと無い
有るのは恐らく事実のみだ
つまりなにも望まない
なにも望まないものに
私はどうして憧れをもって
君のようになりたいと
そう思うことが出来るだろう
月は太陽ではないように
望まぬ事は憧れではないのだから
だけど本当は君も私と同じで
私も迷い、漂う現象に過ぎない
すべてはそうであって
またことごとくそうではない
これ以上は言葉遊びの域をでない
私はこれを書くことをやめて
人生を謳歌するとしよう
海月よ、さようなら
詩人:清彦 | [投票][編集] |
もて余した欲求の成れ果て
感覚は神経を捕らえて
衝動は像を纏った
誰も座れないはずの椅子に
気づいたら誰かの影が見えるよ
空は快晴、眩しすぎてうざったい
雲ひとつないのがまたしゃくだね
いつだって、無い物ねだりさ
遮断していて聞こえないメロディ
本当はいつだって見ないふりしている
コインのすぐそこだ その裏側
目の前に転がっているはずの
不都合で不快な真実
誰だって変革には痛みを伴う
デタラメな今日を歯車が
噛み合わないまま刷り練らして
そりゃあ自分のせいには
なるべくしたくないもんねぇ
闇雲に森を歩いても
見えてないモノがあれば
永遠に出られない
わかっていたんだよ
あの影は僕自身さ
だって、僕が僕を殺せるかい?
それどころか
僕は僕の意志で動いたりしないね
コインは自分勝手に裏返らないように
僕にだって常に付きまとう風
彼は歌の中を強く吹き荒れる風だ
正体不明の衝撃
遮断して聞こえなくても鳴り続けるよ
今日だって、
疲れ果てた欲求の成れ果て
理想や夢や憧れや希望や愛や
恐怖や憎しみや絶望や死や
詩人:清彦 | [投票][編集] |
心…どうする?
湿気 部屋 ひとりきり
空白 ノートは無駄
思考はぐるぐる
手足はいつも動かない
年金の問題にしても
いつだって、そう、甘やかして
ほったらかしておけば
腐敗 怠慢 妥協 裏切り
人と何かを強く結ぶには
信念が要るってのに
システム テクノロジー
組織、社会、団結力
出来上がった枠の中
飼い殺し、いや、甘えだ
おかげでそれなりの毎日
本来はもっと弱肉強食だった
獲物を狩って喰っていた
いつしか言葉と文字が発明され
知識の継承を積み上げて
安泰の上に文明が建ち
おかげで一見、平和な今日さ
誰が僕の事を見ている?
善も悪も枝分かれしてしまって
小さなコミュニティのはしっこで
今日も誰かが歌ってる
僕は誰を見ていればいい?
完全なる不完全を目の前に
横たわる堕落した部屋の角
今日も意味もない落書きが増える
全てはいつもホラ
空虚だよと仏が嘲笑ってるね
もて余した自由を使いきれない
小さなこの僕に
間違いのない本当の何かを
誰か僕に見せて下さい
詩人:清彦 | [投票][編集] |
みんな、なかなかどうして
ひとりぼっちでは
生きていけなさそうだね
僕が空に目を奪われるのは
果てしなく広がる青さが
世界を同じように包み込んでるから?
甘えん坊の猫が
しきりに撫でてとゴロゴロ鳴らす
悲しみも痛みも雨も死も
背負いながら、まるで無いように
愛があって、みんな笑顔
ちゃんと選んでるんだ
最善の選択をちゃんと
知らず知らずのうちにさ
だから僕は責められないよ
君が違う誰かと暮らしても
なんならこの痛みだって
音楽とお酒によく合うね
煙草の煙に生まれ変わって漂う
まるでどうしようもない気持ち
こんなふうに僕らは
わからない未来を
わからないまま受け止めて
ふわふわ、くるくる
気付いたらいつの間にか
そこには
愛があって
みんな笑顔
詩人:清彦 | [投票][編集] |
沈んでいたはずの太陽が再び空を
込み上げてくる歓びで満たすように
やっぱり、何度でも
僕は生まれ変わるんだよなぁ
雲は自由自在に見えて
実は風と追いかけっこ
街はきらびやかに光って
毎日がお祭り騒ぎ
当たり前のように流れ流れる
人も時間も音楽も
移り行くグラデーションの模様
なんだ!
僕たちも雲と同じじゃないか
初めっから違っていた解答
この世は悲劇なんかじゃない
ひまわりがまた
太陽を見つめているよ
何度だって何度だって
僕は何処にでも行ける
随分と片付いた部屋の端で
あの日のぬいぐるみニッコリ
いつまでも変わらない
純粋な歓びそれ自体が
僕の世界を満たしていく
詩人:清彦 | [投票][編集] |
笛吹きの男は奏でる
彼が笛を吹けば
風は静まり、辺りを包んで
花や草は彼の方に傾き
時間は止まったように
彼の音だけが流れ
全てがその流れのみに集まり
全てが音楽と調和し
疑うことなく寄り合うのだった
彼は周囲から愛され
豊かに溢れる歓びを
笛の音に響かせては
幸せに生きていた
しかし時代は押し寄せた
ある時、地響きのような轟音が近づき
激しい熱風の嵐が吹き荒れ
雨は赤く重く降り注ぎ
人々は恐怖に顔を歪め叫んだ
戦争は容赦なくやってきた
すべて終わったとき
彼の大切なものは
笛以外の何も残らなかった
それから彼は笛を吹かなくなった
ある時、彼の眼は
ぼんやり遠くを見つめて
若き頃の満ち溢れた光は失われ
背中は枯れ木のように曲がり
唇は見えないほど髭が覆い被さり
その色は疲れたように白かった
彼は老いていた
戦争の悪夢に覆われ
亡骸となった人は
蟲に喰われ姿を変え
土に還りその姿は失われ
その上に次々と
花が咲き乱れて色が甦り
風に吹かれ踊っては
蝶々たちが甘い臭いに誘われ
その周囲をまた彩るのを見た
彼は永すぎる時の流れを
幾度も見つめていた
そして、許したように
ゆっくり頷いては
静かに笛を吹き始めた
その音は老いていてゆったり伸び
あの頃よりも優しく
哀しみや慈しみも含んでいた
風は静まり、辺りを包んで
花や草は彼の方に傾き
時間は止まったように
彼の音だけが流れ
全ての周囲がその流れのみに集まり
失われた人々も
哀しみや慈しみ
今までの過去の全てと現在の全て
それら全てが、音楽と調和し
疑うことなく寄り合うのだった
その時、これらはもはや
あの頃と区別がつけられなかった
演奏を終えて彼は
笛を手放し、空中を見上げて
座ったまま、動かなくなった
そしてまた、時間は流れ
彼は土に還り姿を消し
その上には花が咲き乱れた
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彼は猫を飼っていた
彼は猫を好いていた
猫はというと彼を好いてはいなかった
だが彼の住む温かい部屋を好いていた
日に二度与えられる餌を好いていた
窓から降り注ぐ日光を好いていた
彼の家族は既にこの世を発っていた
彼は嫁もとらずに仕事に打ち込んでいたので
周囲は彼を心配した
彼は疲れていた
実に彼は病気に蝕まれていた
だが彼はあるとき悟った
もろもろの悩み
不安や怒りや恐怖は彼自身に過ぎなかった
同時に、彼の今までの一切の歓び
安心や信念や快楽
それらも、彼自身に過ぎなかった
それらはすべて幻であった
それら一切は迷妄であった
彼は、彼の一切は欲望や願望であることを知った
彼は、彼の一切を条件付きの現象であることを知った
彼は、彼の一切をただの流れであることを知った
彼は、彼の一切を言葉には出来ないことを知った
彼は、彼の一切を言うなれば彼自身であることを知った
彼は、彼自身とそれ以外の区別の必要が無くなった
それ以来、彼は執着を断った
もはや何事も愛でず
何事にも怒らず
何事にも悩まされず
何事にも抗わず
彼は、彼と一切を同化してひとつに静まり返った
それから、猫は餌も与えられずにいたので
彼が樹や岩のようになったのだと思って
やがて、彼のもとを離れていった
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相変わらずだよなぁって
電話で話した
懐かしい
もう 遠い日
夕方の帰り道が
当たり前のように
この僕の、辺りを包み込んだ
それじゃあなって
また僕は僕だけの夜に帰る
まるで、一日を終えて
夢に旅立つように
静かな部屋には
僅かな香
小さな気がしてた
笑顔や冗談の小言たち
そうだな
帰り際にあの娘の家に寄っていきたい
もう、会わなくなって
随分 経った けれど
あの頃と変わらない笑顔で
懐かしいなぁ
…だなんて 言いたい
逆さまに返した砂時計
…ねえ?
本当はずっと長い間
愛していた気がするよ
いつまでもずっと一緒だって
手を繋いだ笑顔が
遥かな場所で今も生きてる
あの頃と変わらない笑顔で
じゃあまたな
…だなんて言いたい
もう一度、さよならのつもりで
ありがとう って
笑顔で 言ってみたい
詩人:清彦 | [投票][編集] |
まるで内緒話に耳を澄ますかのように
君は黙って僕の言葉を待っていた
僕の呼吸に乱れはあるだろうか
真っ直ぐに僕を見つめている瞳
逸らすわけにはいかないようだ
愛しいというのは
愛しいだけでは済まされない
観察しているんだね
僕たちはデートなんてしない
一緒にいられるのなら
別に何処でもいいのさ
それがこの味気無く
見慣れた退屈な部屋のなかでも
毎日はたんたんと
暖かい日差しも恵みの雨も
時には嵐も連れてくる
僕は何か大事なことを
忘れてしまっているんじゃないか
どうもずっと
そんな気がするのだけれど
永遠のような時間
君は黙って 僕の言葉を待っていた
耐え難い静けさに揺すられて
そっと、溢れた結論
さようなら。
愛しいというのは
愛しいだけでは済まされない
痛みも苦しみも喜びも
この空の中
時計の針が刻む螺旋の中に
全て閉じ込めてしまえばいい
いつかまた雨が降ったら
そっと
そのときまで
詩人:清彦 | [投票][編集] |
信号が替わって向こう側から
同級生とすれ違い様
「何処へ行くの」と聞かれたから
「散歩だよ」って返した
休日の午前中は穏やかな空の下で
歩く速さも自由でゆっくり流れていた
今朝見たニュースでは
何処か遠い国で
戦争が始まったって
語っていたけれど
変わらない青空
僕にはわからなかった
日々に 日々に 日々に
あの駐車場を曲がったら
電柱通りの登り坂
あのコンビニのあるところは
その昔駄菓子屋さんだったらしい
代わる代わる景色を眺めて
ゆっくり歩いていたけど
約束の通りの時間と場所には
君が立っていた
笑顔で手を振って
君が駆けてくる
僕は何でもないような顔で迎えたけど
本当はもうずっと
会いたくて仕方なかった
君に 君に 君に
流れる曇のあり方は
自由な気がしていて
形さえ思うままだったのなら
どんなに嬉しいのやら
ソーダを買おうよ
店に向かったら
さっきすれ違った同級生が
自動ドアから出てきた
慌てて手をとって
君と駆けてゆく
今までの景色が巻き戻っていく
このまま もう ずっと
どこまでも駆け抜けていこう
ふたり ふたり ふたり
僕らの青春は
流されてしまったって
今までとなにひとつだって
変わらないものがある
あのまま もう ずっと
ふたりは駆け抜けていた
日々に 日々に 日々に