詩人:和泉 | [投票][編集] |
雑踏の中
確かに私はいる
右にいたあの子は
遠くで さようなら と
静かに手を振り
左にいたあの子は
いつの間にか座り込み
振り返れば遥か後ろにいた
雑踏の中
それでも道はあって
矢印だってある
数多く散らばって
雑踏の中
誰かの足を踏まぬよう
誰かにぶつからぬよう
気を付けてはいるものの
限界はあって
脱げた靴は
確かお気に入りだったはず
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耳を澄ませば
秒針の音色に気付き
部屋の静けさが増す
一秒を刻む針は
円を描(えが)き
元いた場所に帰るらしい
静かな空間は
秒針と
シンクロする心臓のリズムだけ
それは少し
心地良く
静寂の中に
聴こえてきた響き
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ぱん と
弾けた風船は
あの日のもので
あって欲しかった
手を離してはいけない と
教えられていたのに
気が付けば
風船は手から消え
空高く登り
気持ち良さそうに泳いでいた
泣く子に
また今度 と
パパは約束をし
風船を失った右手を
ママの左手が優しく包んだ
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夢で逢えたノスタルジー
朧気な映像
編集機能なんて
ないのは百も承知
突然 現れて
なのに
記憶には残ろうともしない
君のメッセージを掴みたくて眠る
そんな夜は
決って現れない
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道端に咲く花の名前すら知らなかったあの頃
夏に毎年配られた種は
小さくて
ジョウロのシャワー
サン・ライト
土のベッド
それらだけで
大きくなったとは言わないけれど
紫の花びらは
きっと
色鉛筆じゃ表しきれなくて
何度も書き直して
薄くなった絵日記帳
あの小さな種が
咲かせる花が
こんなにも綺麗だったとは
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滑り落ちた言葉が
星のように地面に散らばり
たまに
拾う人もいれば
見て見ぬフリの人
落とした言葉を
自分で拾うことは
呼び掛けて相手が気付かなかったくらいの
空しさで
できるなら
落としましたよ と
相手が見つけてくれたなら
そう願うのは
自分でも嫌なのだけれど
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出せず仕舞いの手紙
いつの間にか手から消えていて
お元気ですか で始まり
では また で終わる
またなんて
叶わない夢なのに
それは
離れた時間のせいなのだろうか
それでも
決って
最後を飾るのは
その言葉で
八十円切手も
いつを最後に
買わなくなったのだろう
宛先は
まだ覚えていて
眼を瞑ってでも書ける自信があることが
余計に悲しくて
もう使わないレターセットで
引き出しは閉まりきらなくて
出せず仕舞いの手紙を
探す勇気もないのです
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効きすぎる冷房に
心も冷え
消えゆく温度が
何故だか君を想わせる
時間と距離の掛け算で
出会えた答えはこの気持ち
名前は何て言ったかな
冷えた空間から飛び出し
暑い世界に引き戻される瞬間の
あのめまいは
何故だか君を想わせる