詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
どうせ、放っておいたって
死は、呼んでもない時にひょっこりやってくる
死は時々、神秘的な、悪魔的な力で我々を魅了するけど
それは、夢みる子供がサンタクロースを想像するのと同じこと
いずれ、ふっ切れる夢
死は、望んで始められるが
生は、望んで始められない
生にも、死にも特に意味はない
だから、君が素敵な意味をプレゼントしてあげて
生きてるうちに、よく生きよう
等身大の君をよく生きよう
あわてんぼうの小学生に、大学の勉強は要らない
お百姓さんは、鍬を造れなくて構わない
お百姓さんは、そのことに引け目も感じず、ただ懸命に野菜を作る
間違えて鈍行列車に乗ったと思って
窓の景色をただ眺めてごらんよ
死への特急列車に乗り込む人を羨むのは
もう、よそう
真実の世界は、君の中にだけある
誰も、世界を持ってないし
知らないし
世界なんてモノも、ない
大人になるのは
ワクワク素敵な
がっかりからのはじまり
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なんとなく買った新発売のブルーの豆電球は
彼女の部屋に、意外によく似合った
裸足の足をベッドの中で擦り合わせながら
見上げる青いランプ
深海を漂う、
一人ぼっちのクラゲみたいに頼りないブルー
狭い部屋を
ひそやかに浮かび上がらせる
開けっ放しのドアの向こう
開けっ放しのピアノ
貼りっ放しの古い映画のポスター
黒い紙面にブルーが反射して
何かを映し出そうとしているようだった
首の角度を変えると消えてしまう
ブルーの映像
透き通る残像
それは
グランドキャニオンみたいな崖にも
清らかな夜の入り江にも
静かに躍動するアクアリウムにも
見えた
お酒は、少しも飲めないけれど
碧いカクテルがここにあれば
どんなに素敵だろうかと
彼女は思った
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やっと見つけた
小さなデパートの雑貨屋で
君にぴったりの香り
もちろん即買いしたさ、
香りの名前も見ずに
嗅いだ瞬間に
君の、
うなじと耳の裏を撫でる仕草が浮かんだ
君がそっと隣に
腰を下ろし
ハンドバッグを膝にのせたあの時をね
探したよ
ミルクみたいに柔らかいけど
すごく角があって
クセがあるんだ
ねぇ、僕はやっぱり
ものすごく格好悪いやつなのかも知れない
君を無くしてから二年、
忍びよる春
僕はもう、大人
歳をとりたくない
…なんてね
笑わないでくれよ
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酷く雨が降っていたので
僕は、始め、それが雨漏りだと思った
しかし、それは油だった
家のちょうど中央に位置している柱の根本に
黒く、まあるく染み出していた
拭っても拭っても染み出すので気味が悪かったが
とりあえず放っておいた
ある日、母から電話がかかってきた
あんた、油、ちゃんとしてる?
油?
ああ、あれ
なんともならないよ
きちんとなさいよ
今のうちだからね
うるさいなぁ
忙しいんだよ
僕は、電話を切った
柱が油で溶けて沈み、少し家に歪みがでたらしく
ある日突然、扉が閉まらなくなった
嫌な予感がしてベッドを持ち上げるとやはり油が染みていた
新聞を敷き詰め、週に一度代えるのが日課になった
彼女は、ポッキーを食べながら
そうなっちゃったらもう駄目よ
貴方も沈むわよ
と、悪戯に笑っている
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降り注ぐ洗濯バサミ
カラフルな安っぽい、Tシャツ
雨上がりのありふれた虹に小躍りするような街角
水溜まりに落ちた水玉下着も照れ笑い
生まれ変わってから私は一度も
笑っていないこと
思い出せたの
君の、おかげで
思い出せたの
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アイマイなんか糞喰らえだわ
待つのなんか大嫌い
いつまでポリバケツの蓋を握りしめて
湿っぽい歌を探してるの
早く私を抱きしめに来なさいよ
そんなギターへし折ってやるわ
私を愛してると
今すぐ叫んでよ
小綺麗な歌なんか要らない
どんなアートも体温には勝てないの
これ以上、運命を
待たせないでよ
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
メイクも酷く下手くそだったあの頃
ブルーのアイシャドーもアイラインも
めちゃめちゃに書いて
安物のファンデーションでソバカスを隠した
濃すぎる眉を引いて
駐輪場にはりつく虫
隠し切れないのはソバカスだけじゃなかった
浮ついて、堂々と君を探しては
渇いた口元を押さえた
下駄箱のピラミッドをミニチュアとも知らず解体
中には健気にも君が眠ると信じて
語るのはカーテンの中の君
本当は歩き方や、カバンの掛け方しか知らなかった
君のペンの持ち方を懸命に真似て
君の好きなコーヒーを
いまだに時々、買ってみる
甘すぎるその味は
いつかの雨の匂い
錆びた階段の手摺りの感触
オモチャの愛のうた
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実らなかった過去の恋は極上のエスプレッソ
浮気性な彼のセリフは歴史から消えた幻のチョコレート
古代文明の閃く音楽が
ジュラ紀の鳩の、真紅の瞳を潤ませるように
遠くに旅立った恋人の叫びは
麻に包んだ香辛料の誘惑
シルクロードの焦燥
甘く
遠く
天竺まで、たなびくのは
地中海
ココナッツの香り
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つくる度、味の違う私のうどん
散ったネギが少し痛々しい
貴方は金曜日
これが好きだと
黙々とすする
「そんなものを見ても
僕はカボチャは食べないよ」
新しい料理の本を見て
警戒なんかする
嫌いなものを食べさせようなんて考えたことはないのにさ
貴方はウサギみたいね
神経質なウサギ
飼い馴らすことが目的じゃないの
貴方の鳴き声は私の非常食
貴方の未来は私の主食
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アマゾンみたいな低い空の下
無数の渡り鳥に急かされ
息切れを覚えた真っ赤な夕日
地球を抑制する理性は豚のお面を付けて隠れ上手のつもり
冬、切れたつま先をみつめるチンパンジー
夏、歪んだ大陸を査定するペンギン
今じゃバス停を作りすぎたせいでバスはやってこない
生臭い人間の領域
コカインの元になったのは
八百屋で落としたコンドルのタマゴ
賞味期限は午後3時
海水、干上がる
午後3時
地球が永眠る、
午後3時