詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
昔 バイトしてた スーパーの青果コーナーで
そのおやじは
のさばってた
野菜を仕入れてもってくる仕事なのに
お医者さんや先生みたいに俺は偉いんだぞって感じの態度だった
知っていることの自慢を延々と語った
安っぽいえらそうだな
今思えば
政治家きどりで
いろんな批評や考えを語った
おやじ
おやじ
話を聴く
高校生の私は、
そうなんですか、すごいんですね、へぇ
なんて純粋に感動して
おやじに
浅はかな世界観を説明されて
おやじ
おやじ
寂しかったんだろう
嫌らしいことも考えただろう
おやじ
おやじ
太い、暑苦しい、ださい
おやじ
青果コーナーにまだいるか
おやじ
病気になるな
おやじ
元気に
下らない話
偉そうにしながら
今も、のさばっていろよ
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よごれ
よごれって 何だろう
服のよごれは全国のお母さんが洗濯機で
じゃぶじゃぶやる
床のよごれはおばさんがモップで
きゅっきゅっする
よごれ
いつも一箇所に留まることができない
日本一の忙しがりや
よごれは嫌われん坊?
いいや
よごれていくほど油のりがよくなって
コンガリ焼けるフライパンがあるなぁ
ま新しいお寺より
茶色くよごれが染みたお寺のが
かっこいいなぁ
よごれ
よごれって何だろう
よごれがあるから美しい
ってむじゅんしてるな
僕もよごれていいのかな
そしたらかっこいいのかな
でもお風呂に入れば取れちゃうな
よごれ
よごれ
何だろう
わからないけど
多分
僕はよごれ
嫌いじゃないから
きっと友達になれるだろう
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消しゴムのカス
空腹
居眠り
手紙用に破いた隅
色ぺンの試し書き
リボンだらけの可愛い女の子
ドラマの続き
えっちな話
フリスク
退屈
理屈
反抗
理想
忘れもの
予感
はじまりの憂鬱
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見つめること
恐れること
うかがうこと
悩みがひとつだけになること
記憶を作り出すこと
シミュレーションすること
雨を待つこと
休日が嫌いになること
心が柔らかくなること
永遠の春を信じること
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
生と向かい合い
魂と向かい合い
老いた 朽ちた
肉体であっても
あらゆる容姿の
肉体であっても
ほんとうに最期の一息は さくらの花びらが
地面に達する瞬間のように穏やかだろう
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
信じていいですか
私の道を信じていいですか
それは正しい道
強い道だと
信じていいですか
この目尻のシワの間に
意外にも上等の優しさがあると
信じていいですか
月は雨雲の夜も
私を見ていると
信じていいですか
私は親孝行な娘
母は私の通帳や部屋や、洋服箪笥を見ていつも溜息をもらすが
私は親孝行な娘
ただ生きる事が地球への恩返し
そう信じてもいいですか
私に少女が救えると
固く閉じられた小さな掌が日だまりをすくえる日
それは明日であると
信じていいですか
人々の夢を
メリーゴーランドにすがりつく
愛しい夢を
信じていいですか
年金をもらうまで
信じていいですか
寝静まった深夜の台所でひとり
夕飯の残りものをつまみながらでも
祈っていいですか
祈ることは
歩むことだと
棺桶が閉じる日まで
信じていいですか
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
主人公
主人公は悪を倒す
なんだかんだあって
まぁ、最後には悪を倒す
悪役のお城には事前に爆薬が仕込んであって
主人公が姫を助けだしてエイーってやると
派手にボカンと行く仕組みになってる
きっと悪役は姫に手を出してない
きっと姫の下着も汚れていない
そして姫は主人公とラブホテルに向かい
姫の下着は汚れる
姫の人生で初めて汚れる
主人公はその姿を見せないし
誰も詮索しない
学級委員長も
牧師さんも
主人公
主人公は勇気がある
主人公は運動神経が良い
主人公は生命保険とかに入ってはいけない
主人公は免許証がなくても何でも運転できる
主人公
主人公は
ピンチと女と爆弾と筋肉に愛される
主人公
主人公は人間なので
うんちやおしっこや
ゲップやセックスをして
時々ラーメンを食べに行く
恋人にピルを飲ませ
自分は精神安定剤を飲む
主人公
主人公は悪を倒したくないかもしれない
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
詩人
詩人は忙しい
詩人には
確かめなければならないことが女子高生の父親なみにある
詩人には
それぞれ救うべき人間が
脳外科医なみにいる
詩人には
越えるべき障害が大統領なみにある
詩人には
奏でるべき音楽が音楽家なみにある
詩人は
そう詩人は
地軸の辺りで地球を必死に回しているけれども
詩人がいなくても地球は回るかもしれない
詩人は言葉の将棋士だが大手をかけられると
板をひっくり返す
詩人は
詩人は時々
鏡の前に裸で立っていたりする
詩人は氷水を用意しろと言われたら北極まで行ってしまう
詩人は恋人とどれほど強く抱き合っても
その隙間には言葉がある
詩人は
詩人は言葉を愛しているが
言葉に愛されるかは謎だ
詩人は
神さまに好かれる
神さまにゴマをするのが上手いから
詩人は
形のない何かに形を与え
何もない何かにも形を与える母である
詩人の体をメスで開くと
肝臓には消化しきれず残った言葉の残骸がある
詩人
詩人は
転ぶ瞬間も詩のことを考えている
詩人
詩人を創り出す作業は
非常に難しい
だが詩人は無人島に行くとおそらくすぐに死んでしまう