詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
真夜中に
目が開くと
やや激しい雨音が
小さな部屋を包んでいた
何かに導かれ
虚ろな黒目は魚のように
暗闇をたどり
私は「それ」が 始め
何かに照らされ、光っているペンケースのようなものと、思った
枕元にこんなものが在っただろうか?
そんなことを考え
「それ」に触れてみようと手を伸ばした
「それ」はすっと
消えた
、、、光、だ
「それ」は光る物体ではなく
ドアの隙間から差し込む
一筋の光だったのだ
そうして
泣きそうになるような震えを覚えた
私は
おそらく
一度は物体と確信したはずのものが
存在自体、無かったとゆう心細さと
ただ、その線が
細く
強く
射している方向は
考えれば考えるほど
肥大し
怖くなり
不確かになるもの
明日のようなものに酷似していたのだ
私はふいに その不安定が映しだす幻の調和
それが自然という、
「真理」の美しさを
一瞬、覚った
そして
その瞬間
失われた感覚は二度と戻らないことを
本能的に悟ったのだ
その
悲しさと
それゆえの
美しさ…たゆとうものに
強く惹かれ
私は
泣きそうになったのであろう
雨音の叩く
小さな夜に
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極寒の海から引きずり出された僕は
会議室のテーブルについていた
君、言いたい事はちゃんと言いたまえ
そんな物騒な武器は早く棄ててしまいなさい
ナイフは手で持てば、目の前の肉体を切り裂く武器、口で持てば無限の力を秘める芸術
寒いとは、どういうことか?
いい加減、説明をしてくれないか?
仕立ての良い背広の男たちが口々に言う
会議室にメラメラと燃える暖炉が次第に僕の唇を溶かしていく
僕は、その日
生まれて初めて声を発した
知っているただ一つの言葉を
「助けて」
途端に
背広の男たちは、次々に神話上の動物になり
僕の体に入ってきた
暖炉が消えた後もずっと、僕は温かかった
寒さを忘れるほどに
温かかった
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
僕らは労働者
僕らは住人
僕らは子供
僕らは親
僕らはお客
僕らは細胞
僕らは患者
僕らは治療者
僕らは乗客
僕らは肢体
僕らは脳
僕らは水分
僕らは心
僕らは生徒
僕らは新人
僕らは視聴者
僕らは消費者
僕らは他人
僕らは市民
僕らは戸籍
僕らは番号
僕らは動物
僕らは言葉
僕らは視線
僕らはホルマリン漬け
僕らは可燃物
僕らは宝石
僕らは生ゴミ
僕らは時間
僕らはクルー
飛行船のクルー
透明な、クルー
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
私たちが唯一
生まれたときから持っているもの
それは
自分以外のすべての世界とコミュニケートしようとする意思
現にまだ言葉もしゃべれぬ子供も
身近なものたちとコミュニケートしようとしている
例えば
お椀
なげたり
手を突っ込んだり
かじったり
お椀が横になってぐわんぐわんと揺れる揺れ方をまねして
自分の体を左右に揺らしている
正しいコミュニケートの在り方を模索し、試行錯誤繰り返す
私たちが何かとコミュニケートするとき
つまりはこういう事が起こっているのだ
コミュニケートしたい本能が先か
胚になるのが先か
そうして
私たちは肉体を持った
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
あなたのなりたい職業は
「海賊」です
あなたは自分のことを
「でかい」 と思っています
あなたと恋人の結末は
「とおくなった」
です
あなたがフラれた時に言うセリフは
「じゃあね」です
あなたの青春時代を例えると「まっすぐ」です
あなたの精神年齢は
9才です
あなたの嫌いな性格は
「願い事を一つ叶える」です
あなたは自分の才能を
「ピカピカになった」と思っています
あなたの、人生を
「よくできた」と思っています
あなたの人生の敵は
「ルパン三世」です
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ただ まっすぐに
ほんとうにはじめの
今を
書きたかった
ただ純粋とか
潔癖とか無垢とか
それ以前の
ただ
そうして、ただ
ほんとうにはじめの
私に会いたくて
悪戯に
あなたは言う、寒いならここにいてもいいのよ
私は、答える
ただ私を、思い出したいだけ
そう
私の 声 とか、 話し方とか 筆跡 とか
さりげなさとか
冷たさとか
恥じらいとか
怒りや はじめの夢
はじめての 憎しみ
使いかけのノート
書きかけの名前
余りものを捨てる大人は有るがままの大切さを力説してた
はじめの
ほんとうにはじめの
そう
言葉は何だったんだろう
その季節の眼差しは
誰を
何を刺していたんだろう 射抜いた
その
ほんとうにはじめの先に
触れたものは
透明な窓ガラスの先に張り付いた風景は
そして考える
ほんとうのおわりに
何を書くべきか
こんなにもたくさんの使い切れないものたち
そうして
ほんとうのおわりに
片付くはずもない
温もりだけには
爪を立てずに
ほんとうのおわりに
ほんとうのはじめの
輪郭へ
その鮮やかな白黒の線に
触れることを望み
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
私は尋ねた
なぜ貴方はそんなに美しいのですか
泥だらけの真っ赤なトマトは
太陽の下で答えた
そりゃ、あなた
真剣にトマトしてるからよ
真剣にトマトするの大変ですか
まぁ、真剣なトマトなりに色々あるわよ
どうして真剣にトマトできるんですか
あたし、実はね
もともと人間だったの
で、神様にお願いしたわけよ
また人間にしてくださいって
そしたら
お前は不真面目だからもう駄目だってゆうの
どうしても、ってしつこくお願いしたら
じゃあ、トマトにして生まれさせてやるから
真剣にトマトできたら
次は人間にしてやろう
ってね、こーゆー訳なの
じゃあきっと次は念願の人間じゃないですか
んーでもね、トマトで生きるのも、なかなか捨てたもんじゃないのよ
へぇ…
不真面目に人間より
真剣にトマトのが楽しかったわ
詩人:剛田奇作 | [投票][編集] |
ロッカーにたたき付けられた、まだ若い刑事は冷酷になりきれない
監督権を得たマフィアの能無しはディスクを持ち去り兄を殺される
排泄物を垂れ流すゴッドファーザーに会ったのは先週
戦争物語に手が震える窓辺の明るい月曜日
喧騒の中 長雨に耐える街の教会、それは日曜日
デジタル化された細密なスフィンクスの肖像
日本の文化の最先端は割り箸だという大統領に遅れた面会者
湖に入ったばかりなのに浮いてきたおじいちゃん
デスクの下で内緒でトカゲを飼っているピーターは今日もセロリを大量に買いあさる
認められた 誠実な欲望の繁殖地域の管理人
思い出せないパスワード
確か…
『日課は幽体離脱』…
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大地に 棒が 弱々しく投げ出されていた
棒の先端は 五つに分かれていた
命はそれを手足とよんだ
こうして宇宙一
分類を気にする生き物が生まれた
この生物は非常に奇妙な性質を持ち
分けることは大得意
反対にひとつになること は大の苦手
怖いので境界線を放り出せずに今日も
その貧弱な四本に巻き付けている
そうして
境界線を大地にぶら下げ
何気なく時々
空を見たりしている
本当に
大地に 何も無かったころ
人は、毎日何時間も空を見上げて
宇宙は家族で
同じように挨拶を交わしていた
けどもう誰も 空に挨拶するものはいなくて
携帯電話の数え切れない仮想空間のなかで
笑いあったりする方がまだ人らしいと信じて
その仮想空間を自在に飛び回る
境界線を悲しげにはためかせて
大地に 棒が
弱々しく投げ出されていた