詩人:中村真生子 | [投票][編集] |
−18℃の寒気が
空の機嫌を損ねさせ
空はゴロゴロと怒りながら
大粒の雨を降らせる。
ズボンの裾をびしょびしょにして
目的地にたどり着く。
しばらくすると
バリバリと大粒の雹。
雹に当たらなかっただけでも幸いか。
一夜明けて
夏のような天気。
夕べ怒った空はすっかり機嫌を取り戻し
夕べ怯えた草木は光の中で自らを癒す。
すっきりと気持ちを切り替えて…。
夕べ集団下校をした子どもたちが
スケッチブックを持って街を歩く。
頭上に広がる空の和解を
眼下に広がる草木の癒しを
心の深いところに刻みながら…。
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久しぶりに会った
幼なじみが我が名を呼ぶ。
昔と変わらぬ呼び方で。
その声は
耳ではなくて体に響き
体に響いたその声は
血潮を巡りて
今と昔にこだまする。
夕まぐれ
どこからともなく聞こえてくる
寺の鐘のように…。
幼なじみに名前を呼ばれ
応え返せば
思い出も一緒に応え返する。
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聞こえてくるのは
作った人の息遣い。
見えてくるのは
使った人の息遣い。
暮らしの中で生まれ
人ともに暮らし
ひっそりと還っていく。
けれど
確かに自分を生きて…。
一個の碗に
一枚の着物に
時を超えて
今も息づく
人と暮らしの息遣い。
「柳宗悦展」in鳥取県立博物館
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都心に住んでいた時
所用で地方へ出かけた。
北陸か上越だったと思う。
ちょうど今時分だったのだろう。
田園地帯に入ると
車窓にれんげ畑が広がった。
一面のピンクの花畑。
子どもの頃
よくこの中に入って遊んだ。
お目当ては白いれんげ。
畑の中を蜂のように飛び回りながら
友達と競って探した。
大切な宝物を探すように…。
都心は緑が多く
花も結構咲いている。
ホトケノザやナズナなどの野草も
街路樹の根元や公園で春を告げてくれる。
けれど車窓のれんげを見て思い出した。
この花をまだ見ていなかったと…。
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緑や花のあるところで
たいくつしないのは
きっと彼らが
話し上手だからだろう。
否。
聞き上手
だからかもしれない。
何気に心の中で
遠い昔の
思い出話まで
していたのだから…。
たとえばこの藤棚の下で…。
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表と裏と。
くるっとねじってくっつける。
表は裏に。
裏は表に。
もう、表も裏もなく。
けど、表は表、裏は裏。
心と心と。
くるっとねじってくっつける。
私はあなたに。
あなたは私に。
もう、あなたも私もなく。
けど、あなたはあなた、私は私。
野イバラがまた一つ
白い花を紡ぐ…。
遠くでカリヨンの音が
時を告げる…。
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息を吐くように
心を開く。
その入り口を開けるように。
息を吸うように
心を澄ます。
その御心に仕えるように。
そして
それぞれを通して
その姿が現れる。
野イバラの季節がやってきた。
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冬が返ってきたような
寒い朝。
着ることもなくなっていた
上着を羽織って
窓辺に佇む。
そよぐ庭の木の葉。
なびく土手の草。
強くて冷たい風が
駆け抜けていく。
目を落とせば
片隅に
綿毛になったアネモネたち。
温かくして旅支度。
「また来年。良い旅を!」。
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突然降り出した大粒の雨に
傘の花咲く。
その一つの下に
寄り添いながら歩く若いカップル。
睦まじく美しい姿に
二羽のアゲハを思い出す。
さっきまで居た
木花開耶姫が祀られている
神社の座敷の
ガラス障子越しに見た
二羽のアゲハを。
重なるように舞っていた
青いアゲハを。
彼らはもしや蝶の化身か。
そんなふうに思うのも
ここが宇治だからだろうか。
『源氏物語』の舞台ともなった…。
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日本海側から
太平洋側へと
列車に乗って山を越える。
車窓には
鏡のような水田と
山藤の花で飾られた
新緑の山々。
どの駅から乗ったのか
列車の中に
タンポポの綿毛が一つ。
ふわふわ飛んで
隣の座席に。
しばしともに旅をする。