詩人:老女と口紅。 | [投票][編集] |
地平線遥か遠く
星屑さえも見ている
グラスに夢見た
小さな想いと行こう
きっと行けるさ
お前と二人
抱き寄せるベッドの上で
小さな肩を抱けば
やわらかな髪の香りが
夢の中へ誘ってくれた
からめた指の
ぬくもりさえも‥
スローな歌で心を休め
二人で歩いたあの道
いつからか霧の中
君は影さえ薄く
両手を
延ばしても
延ばしても
風に溶けてゆくだけ
そんなお前が悲しくて‥
スローな歌で心を酔わせ
思い出すさ夕暮れの
君の悲しげな
横顔の意味を
涙が
止まらなくて
止まらなくて
見る物全てが
壊れて見えた
そうさ
あの日の二人は幻
あの日の二人は幻‥
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じじいの春は やな季節
道端へフラフラと歩きだす
ばばっちがハラハラする そんな季節
じじいの夏は やな季節
帽子もかぶらずに日射病
ばばっちがオロオロする そんな季節
じじいの秋は いい季節
のんびりと縁側で日なたぼっこ
ばばっちがそっと茶を入れるそんな季節
じじいの冬は やな季節
心臓が冷たくなる そんな季節
ばばっちの心臓も冷たくなる そんな季節
そんなじじいが言っていた
(八十八にゃ体が勝てぬ…)言いながら昔を思い出す
ばばっちは言った そんなじじいを見て…
(来年あたりは死ぬかもしんねぇ〜)
今はもう寝たきりで口もきけない
ばばっちは泣きながらこう言った
(先生や生命維持装置を外してけろ)と…
ばばっちの
最後の愛だった
最後の愛だった
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夜のネオンに咲く花は
虹色花びら身にまとい
赤いベニさし
惚れた蝶々がほしいから
暗い舞台で踊るのよ
夜のネオンに咲く花は
やさしい化粧で華になり
あまい香りで誘うのよ
幸せさがす恋待ち草は
暗い舞台で静かに咲くの
夜のネオンに来る蝶は
悲しい顔してあたしを見るの
交わす言葉は淋しくて
無口なお酒に酔えなくて
こんなあたしに本気で惚れる
羽を休める蝶々なの
夜のネオンが疲れて消えて
惚れた蝶々が飛んでゆく
あたしの想い知らないままに
いつの日か
あたしの所にヒラヒラ飛んで
優しい笑顔で摘みにきて
あたしがそっと散る前に
あたしがそっと 散る前に
おかしいね
あたし夢見て飲むお酒
悲しいね
あたし一人で飲むお酒
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大地に支えられ
樹木にもたれて
若葉に触れる
空の青さをまぶたに感じ
季節を香り風の歌を聞く
君と過ごした
距離と時間が見えてくる
健やかな空間が
僕を素直にさせる
心の隙間が
君を想う
愛しさで埋もれてゆく
愛され
守られていたい…
愛して
大切にしてゆきたい…
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ビルのやまなみにいら立ちを感じて
コンクリートの熱さにめまいを覚えた時
人々の冷たい視線に生きる希望を失う
交差点では信号機が時を刻み
老女が早すぎる鼓動に息を切らす
誰もかれも
何もかもが一秒を惜しむ
決して止まる事を知らない この世界で…‥
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悲しみを背負った日から お前は優しくなれたね
いつからか 痛みや苦しみ達がお前に抱いてほしいとやって来る
悔しさを叩き込んだ日から お前は強くなれたね
いつからか 情熱や欲望達がお前に力を貸すよとやって来る
愛しさが胸にともった日から お前は素直になれたね
いつからか 辛さや淋しさ達がお前に勇気がほしいとやって来る
お前が愛に溺れた人だから?
お前が愛をむさぼる人だから‥?
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壁にもたれて泣く僕を じっと見つめるシャボテンが笑う
ゆっくりと流れた季節の中で 君との隙間を埋められないまま
時がカチカチと音を立て 二人の過去は刻まれてゆく
そんな僕の
強がりだけが泣き叫ぶ…‥
弱さだけが あざ笑う…‥
僕が君にしてあげた事は何
君が僕にしてくれた事は何
草原を駆け巡る秋風のように行き場所を見失った僕は
ただ壁にもたれて過去を悔やむだけ‥
愛につまづいた男だけれどあの日見た夢までも失いたくはない…
君への想いは 泣いて泣いて‥涙が枯れたら
そしたら
後は‥ 長い長い時間があわい思い出色に育ててくれるよね
もう泣くのはよそう‥
壁にもたれて泣く僕を
じっと見つめるシャボテンが笑うから…‥
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この澄み切った空のやわらかな青色を
両手をいっぱいに広げて掴み取り僕だけの ものにしたい
波が寄せては返す砂浜で
穏やかで やさしい海の胸に抱かれてみたい
山が深々しい緑を貯えた時
嵐が来ても微動打にしない力強さと 冷静さを感じる
丑三つ時の深い森の谷間から 月の冷ややかな顔色をそっとうかがう
しんしんと迫り来る静けさの中 不安と恐れに身を震わせた
そんな思いをする時は
いつも一人きり…‥
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今は春先き
生命の誕生の力強さと 明るい未来の夢を見る
木々が緑色を身にまといそよ風と話込んでいる
雪溶け水が山にサヨナラを言い 大河をめざして先を急ぐ
生きるもの 生きてゆけるもの達の眠りが覚めてゆく
人々もまた静けさの中から 希望と欲望を掴みに動き出す
皆 生きて行く為の前進の時の中で
小さくなった背中が 抜け落ちた髪をじっと見つめる
母親だけが
老いてゆくのだろうか‥
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ド― ン
尺の大きな花火の音で‥ 呼吸が少々早くなる
夏祭り、神社はにぎわしく早く行こうとウチワの中の赤トンボ
ママの手から 駆け出し離れた水色浴衣の女の子
目を細める母親‥
遠い記憶がよみがえる
自分も体験したあのころの幼かった私‥
母に手をひかれ かぶったお面から見上げると
そこにはいつも母親がいた
昭和の初めの母親が いた…
あの日の私も母の手を振りほどき 人込みに消えた
夢中になっていた私が振り返ると そこから母は消えていた
祭りも、人込みも‥
私の母親の記憶もここで消えた
ぎゅっと握り締めていた金魚と風鈴とともに…‥