詩人:山鳩 | [投票][編集] |
雨上がりの夏の朝
車もまばらな誰もいない駐車場
いつも車を止める区画の真ん中に
さみしく置かれていた白いハンカチ
呟いているように雨に濡れて
見覚えのある
赤の刺繍のイニシャル
Y.Y
一瞬
時が止まった気がした
目の前に現れるあなたのまぼろし
あの日の夜明け前の
かなしいあなたのこころが
ここにある
潤んだあなたの瞳は
動かなかった
そんなあなたが確かにここにいた
濡れたあなたの白いハンカチ
そっと拾い上げて
切なく見上げる天使のきざはし
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
見つめつづけたあなたのこころに
この指先で触れらなくなって
見失ったあなたのやさしさを
探しあぐねていま立ち尽くしています
海の見えるこの丘のうえで
ぼくはあの日をふりかえるのです
出会った頃の記憶ばかりをこの手に並べて
また砂時計をひっくりかえすのです
暖められた芝生の匂いに
頬をなぞってゆく海風に
あなたの残した言葉はよみがえります
あなたを知ったそのときから
ぼくの美しすぎる哀しみがはじまりました
すぐ傍のしあわせの重さを忘れるほどに
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
†青色のえんぴつ†
青色のえんぴつで
君にさよならの手紙を書こう
青は哀しみの色
青は海の色
哀しみの溶け込んだ海の色
だから分かって欲しい
青色のえんぴつで書いた手紙を
凪いだ海に流そう
君のそばに流れ着くように
でも途中で溶けてしまって
君には届かないかもしれない
だから何度も何度も
さよならの手紙を書こう
このちびてゆく青色のえんぴつで
********
一年の終わりに。
私の部屋を訪問していただいた方々、
ありがとうございました。
よいお年を。
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
ようやく北風が窓ガラスを
打ち鳴らす季節
凍えた銀色の月の光が
部屋に差し込む夜半すぎに
携帯のバイブが短く震えた
きっとそれは・・
非通知のサインに
僕は遠くの君に想いを馳せた
木枯らし舞うケヤキ通りで
君の背中を見送った
あれからもう一年
これが僕らの本当のサヨナラのサイン
きっと君は
新しい愛を見つけたのかもしれない
僕の知らない誰かを
愛し始めた君のほほえみを
僕は頭に描いた
これでやっと僕は深い眠りにつける
思い詰めた日々は嘘のように
見つめ続けた白い過去に吸い込まれてゆく
今夜はもう涙はいらない
僕の耳元でさよならを呟く君の夢を見る
君の最後の夢を見る
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
僕のからだのなかに
流れる君の記憶は
明けがたの夢のなかに現れた
悲しみの瞳は
あの海の碧さのままで
透き通る涙を指先でぬぐう
今夜も夢のなかで出会うかもしれない
何度も何度も
君はふり返り手を振るいつまでも
こころに深く刻み込む
この情景を
もう二度と創れないこの世界だから
君の名を呼ぶこと
それは微かなカタルシス
僕は辿りつきたいあの場所に
月の光を浴びながら
海を見つめていたあの場所に
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
冬の終わりを告げる渡り鳥の囀りに
僕は振り返り空を見上げる
暖かな日差しに温められた芝生の匂い
匂いはあの日の想い出をよみがえらせる
過ぎ去った美しい想い出は
ここに葬られている
海の見えるひなげしの丘に
あの日この世界から消えてしまった
そして悲しみに臥されて
もう永久に目覚めることの無い夢の中へ
さあ花束を捧げよう
パステルの薄い花びらに埋もれて
やがて悲しみは閉じられてゆく
君の面影は僕の夢の奥へ
夢の奥へ
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忘れてしまいたいのは
君の嘘
やさしく哀しい
君の嘘
てのひらにそっと置かれた
君の嘘
忘れてしまいたいのは
君の嘘
わざとらしい君の言葉は
こぼれる涙を隠すため
軽い嘘ならそれでいい
重たい嘘なら
倖せのため
思い出すのがいやになったなら
六月生まれの君に贈った
あのパールのピアスは
荒れた海に捨ててくれ
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君の深い哀しみの涙で
濡れた僕のコートの左肩には
いくつかのシミとなって残った
クリーニングに出しても
けっして消えない
消えることのない
哀しい想い出
君が僕のこころに残した
哀しいシミ
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
この世界に存在する
恋に携わる
数多くの科学者は
無数の恋の方程式を
編み出してきた
I=mc2
I=(1/2)κρ=1/R2
恋を成就させるために
延々と壁に書き尽くされた
おびただしい恋の方程式
ここで
世界の恋の科学者は叫ぶのです
「さあ方程式よ、飛ぶんだぁ!」
・・・
でも
どの恋の方程式も
いっこうに飛ぶ気配はありません
なぜなら
恋には方程式なんて
最初から要らないのです
恋は『感』なのです
詩人:山鳩 | [投票][編集] |
僕は一年のなかで
今の季節が一番好きなんだな
晩秋から初冬にかけての
静かで穏やかなこの海原を見るのが
一番好きなんだな
だってここが
僕にとって
一番印象的な風景で思い出深いところ
なんだな
かすんだ水平線を見つめて
蜃気楼のように揺れて
沖合いの貨客船がゆっくり
ゆっくり進んでる
ふっと深いため息をひとつ
小春日和の日差しに照らされた
君の横顔が今はもう幻想だよ
僕の一番好きなこの季節に
君にまたひとこと
『ごめん。』と
こころのなかで呟くんだ