詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
かつて
わたくしは
花、だったのですよ
よろしければ
咲いてみせましょうか
と
言うと
水、のようなそのおかたは
しなしなとゆびを左右に
ゆらして
ていねいに
それをこばむ
いいえ
その必要はありません
なぜなら
そのことにつきまして
じゅうぶんにぞんじております
あなたが
花、だったそのとき
あなたはずっと
わたしのなかにひたっておりました
から
ひたすら、
に
それならばなぜ
あのとき
わたくしの花弁を
むげにしたのですか
と
問うと
水、のようなそのおかたは
ていねいに
かたむいては
こぼした
わたしはそのとき
じゅうぶんに
あなたのなかにしみいっておりました
ので
あなたとともに
ともに
散りおちたのですよ
ならば
どうしてずっといっしょには
いてくださらなかったの
です
あなたのなかは
とてもここちよかったのです
けれど
どうしてもわたしは
あなたの毛穴
から
しゅうしゅう、と
空にのぼらなければならなかった
そうしてそれは
すべて
あなたを
ふたたびうつくしく
咲かせるため
と
したなら
水、のようなおかたは
舌の上で
ていねいに
そう語ると
すぐにまた
わたくしの
あしもとふかく
ふかく
へと
消えていかれた
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ぼくの投げた、ダーツ
海沿いカーブで 急ブレーキ
壁に貼られた
ロックスターのポスターに
ささって
ぼくの投げた、ダーツ
あそこは風が通るから
早く起こさないと、って
ロックスターはすこし泣いて
コージは、飛んだ
今
胸にある思いや
やらなくちゃいけないことは
すべて忘れたふりをして
ぼくたちは 歌ったり
シュガートーストをかじったりして
遊んだ
そうしないと
笑ってなんか
いらんなかった
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ねえ、
こんなふうに光る
赤信号の交差点でも
きみは 遠い場所へはせるの
さっきまで
胸をかげらせていたニュースも
アドバルーンの空気といっしょに
ぷすぷすと
消えてしまった
ねえ、
向かいのビル窓の太陽
それをつらぬく白虹をみたとしても
ぼくを うらぎらない、って
誓えるかい
ぼくは、どこにいても
ぼくは、変わらずこんなんで
だから
フルスピードの、Tokyo
青信号でばかり
立ち止まってしまうぼくを
知らぬ顔で
フルスピードの、Tokyo
ひとりっきりでも
笑えてしまうよ
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
たったひとつも
あなたを連想させるもの
を
のこさないまま
あなたは
去っていった
流砂にかざす
わたしの左手
の皮膚に
規則正しい、起伏
風、止んでなお
砂は散り
水面は流れる
目を細めても
空
境界線を消しても
その先へ行けない
手がかりさえ
干潟の砂紋
たしかなこと
が
あるとしたなら
あなたはいつも 正しかった
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
一日の終わりに
シャワーの蛇口をひねると
十二時のひずみから
しずくが落ちる
窓枠の
カタカタ
と鳴くのもよそに
通り過ぎたのは
秒針で
洗いながしたのは
遠い遠い
約束
落ちたしずくは
皮下深い底へと
滲みて
消える
なにもなかった
かのように
毎日はつづいていく
なにもなかった
わけではない
今日のしずくを
れんけつして
さよなら
またね
さよなら
と
テールランプみたいに
笑う
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
要るもの、
要らないもの、
要るもの、
要らないもの、
ねぇ
そこの、おにいさん
要らないものを別の誰かが
要るもの、
要らないもの、
要るもの、
要らないもの、
ねぇ
そこの、おねえさん
要らないものをそのまた別の誰かが
要るもの、
要らないもの、
要るもの、
要らないもの、
ねぇ
そこの、だれかだれかだれかだれか
ご自由にお持ちください
ご自由にお持ちください
世界はいつだって
ふるいにかけられている
網の目からの眺めは、
どうだい
さいごのさいごになっても
要らないもの、
さいごのさいごになって
要るもの、
それがなんであろうと
かまわないんだ
ただ
どちらのほうが
幸せといえるのだろうか
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
星砂の夕べ
ファクスからでてきた
きみが
あんまりうすっぺらで
それはそれは
過日の約束ほどに
ぺらぺらだったので
ぼくは
受信エラー。
とだけ 書いて
南の窓からみえる
あの星座へと
すみやかに
返信した
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
こうやって、ね
もちあげたら
そうしたら、ね
おっこちてきたんだよ
ぽた、ぽた、
って
おっこちてきたんだよ
ぼくが
うちゅう、みたいな
まっくらで
つめたいところ、
りょうほうのうで、で
あおくって
まるくって
うつくしい、それ
を
もちあげてみたら、ね
ぽた、ぽた、
って
おっこちてきたんだよ
ひがし、へむかう
カシオペアが
とおりすがりに
いったよ
「だいぶん、ないているのだろう、ね」
って、
いったよ
いっそ
ぎゅう、としぼったら
ぽた、ぽた、
は
なくなるかしらん、て
おもったけれど
あおくって
まるくって
うつくしい、それ
を
もちあげて
りょうてがふさがってる
から
ぼくには
むりそうなんだ
しかたがないから
くち、をあけたよ
ぼくには
のむ、しか
できないから、ね
ぽた、ぽた、
ぽた、ぽた、
うちゅう、みたいな
まっくらで
つめたいところ、
ぼく、
がんばるから、ね
ぼく、
がんばるから、ね
詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
ほら
きょうは もう
ひ がおちる ね
と いいながら
遊歩道ぞいの木々は
うでいっぱいの
はっぱ を
するするとみまわし
だれが いちばん
きいろいか
えらぶのに
いそがしい
ほら
きいろい
はっぱが
おちる ね
と いいながら
それよりさきに
おちて
ちゃいろになった
はっぱを
さっくさっく と
ふみしめて あるく
わたし の
みぎあし と
ひだりあし
の あいだを
ぐるぐるとまわる
こがらし
に
おされて
ほそく
たしかに
きせつ は
こぼれだし
ほそく
たしかに
恋 が
おちていった