詩人:黒夢 | [投票][編集] |
『好きです』
口にするだけで、まだ胸が痛む。
思い出だって関係だって
会えなくなったと知った時、忘れたつもりでいた。
人伝に話を聞くだけで、その名を口にするだけで
蘇る、懐かしい思い出。
脳裏をよぎる、愛しい面影。
『元気ですか?』
『新しい生活はどうですか?』
『まだ私の事、覚えてくれていますか?』
忘れたつもりで蓋をした、哀しく安堵する想い。
想うだけで満たされていたあの日。
話をしただけで喜んだあの時。
今は互いの距離がどれだけ遠いかさえも
分からなくなってしまった。
募る想いにひたすら気付かないフリをしている。
怖いから。
隠した想いに気づいてしまうのが。
隠し続けたい。
駄目になってしまいそうなんだ。
このまま君を忘れたフリを続けたら。
君に好きだと伝えたい。
消える事ない想いを消そうとする心と
それを拒もうとする、矛盾した心。
思い出の中の君の笑顔でさえ
複雑な心情に邪魔されて
ぼやけて見えるよ。
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僕は何も持っていない。
君を守る力も
君を幸せにする権力も財産も。
それでも
君は言ってくれた。
この手が何よりも温かいと。
気の利いた言葉が無い代わり
僕はこの両手で
ありったけの温もりを君に伝えよう。
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目の前にいる家族を
殴り飛ばしたくなった。
片付けることなく溜まっていた本の山を
崩したくなった。
どうでもいい事に酷く苛つくんだ。
負の思いに支配されたこの眸を映す鏡を
割ってしまいたい。
意味も無く身体を傷つけてしまいたい。
俺を非難する声を掻き消す為に流す
大音量の音の洪水。
そこに 癒しも安堵もありはしないさ。
唯、虚しくこの心を乱すだけ。
唯、沸き上がる激情を抑える術にすぎないよ。
取り乱すわけにはいかないんだ。
俺の精神を正常の範囲に保っているのは
情けないことにやたらと高いプライド。
蜘蛛の糸の様な 細い 細い 理性。
もう少ししたらいつも通りに笑えるようになるさ。
こんな思いは一時的なものだから。
心の中でそんな馬鹿な自分を嘲笑うんだ。
もう俺は二度と脱出できないくらいの
深く 暗い 繰り返しばかりの
複雑な輪の中に入ってしまっている。
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涙を流すほど悔しい夜も。
空を真似た狭い天井に伸ばした手も。
君の頬を伝った涙も。
それを拭ったこの指も。
全てが過去に消えてゆくけれど。
僕等には生きていく上で背負うリスクがある。
それはきっと、忘れること。
どれほどに大切なものでも
僕等はいつかその存在を忘れてしまうだろう。
記憶の片隅にその残像を鮮やかに残して。
あの日の僕を形成していた強く脆い想いが
きっと今の僕を迷わせる。
誰かに焦がれること。
誰かを想うこと。
きっといつの日も僕は繰り返すだろう。
消えゆく過去は未来に
小さな鈍い痛みだけを預けて。
消えていく今。
それでも見えない明日。
刹那のこの想いを ただ 抱きしめていたい。
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故意に無機質な日々を重ねて。
君と過ごした日々を
確かに在ったものとして記憶に刻もうとする僕を
人は笑うだろうか。
時間を無駄にしていると、叱るだろうか。
今を大事に生きろと
過ぎた時間はもう戻ってこないと
そんな簡単なこと僕自身がよく知っている。
それでも
割り切れるわけがない。
だから僕は
君が無い今を色無き世界にして
君が居た過去を鮮やかな色で染め続ける。
それが全く意味を成さないことだとしても
僕は記憶の中で時間を遡り
君に会いに行く。
最後に行き着く先に、変わらない君がいれば
きっと僕はあまりにも簡単に
今を捨ててしまえるだろう。
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月の様に温かい光を持っていた。
風の様にこの手をすり抜けた。
太陽の様に笑う人だった。
雨の様にその想いだけでこの身を濡らした。
星の様に儚い夢を抱かせたまま
雲の様に掴めない存在となった。
目を閉じても、耳を塞いでも
私の五感はまだ、貴方を感じているまま。
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太陽なんて眩しいもの
僕には必要ない。
上辺しか照らさない蛍光灯の
まるで僕の愛の様な
安っぽい光が丁度良い。
囁く愛。
向けられる笑顔。
ささやかな裏切り。
歯の浮く様な言葉の羅列。
塗りたくられた真実。
変わらない距離。
報われない願い。
続く関係。
本物という言葉を知らず僕は
足元さえも照らさない蛍光灯の下で
安っぽい愛を流出している。