詩人:望月 ゆき | [投票][編集] |
うたた寝から覚めると
下校時刻のチャイム
開け放った窓から
笹の葉が
通りの向こうを
はしゃぎながら遠ざかる
金銀砂子
はるか頭上を
セスナが横切った
ような気がして
空を見上げる
あの日
短冊にしたためた言葉さえ
思い出せないまま
今日もまた
地球のどこか
赤い土の上で
こどもたちは七夕を知らない
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水槽のどじょうが
ピチャン、とはねて
しぶきは周辺を濡らす
それが 開始の合図。
眠らないモノの、
眠れないモノたち
の
するすると糸を吐き出しては
せっせと罠をしかける
ベランダの角
明日の朝
シャッターがあがるとまた
ママ、とか呼ばれてるあの女が
洗濯物を手に
舌をならしてはそれを一撃
ったく、力作だったのに
と、また夜を待つ。
チカチカは不定期に続く。
佐々木さんちのポチときたら
毎朝 毎朝
足元におしっこひっかけてくのに
大事なのは電柱だけで
見下ろすもののことなんて
きっと どうでもいいんだよなぁ。
あのママ、ってやつも。
あら、これ切れそうね、とだけ
つぶやいて、それだけ。
あぁ、やっと休憩だ。
と、顔を止める
角度も気にならない。
と、思いきや、途端に
ママ、の手が伸びてきて
また首振り始動。
こんな夜は仕方ない、とあきらめモード
なんてモードはないからタイマーモード。
期間限定で昼夜を問わず
労働中。
眠れるモノたちの
寝息を聞いている 窓
の外には 風に揺れる木々
の上には 月が浮かぶ空
の続くずっとずっと向こうでは
「もう 起きちゃいかが」
と カッコウが鳴くわけもなく鳴いて
朝。
それが 終わりの合図。
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五感をはたらかせて
すれすれ を
歩いてゆく。
波が薄く寄せるので
バランスを崩しながら
逃げよう
追いつかれたら
もうそこは恋で
出たり入ったり は。
さくら貝の右側に
気をとられたならば
泡沫に。
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夜の手のひらに
背中を押されて
チラチラと散らばる
港の明かりを見下ろしに
いつもここへ来る
デパートの裏の階段にすわり
わたしたちは
寄り添ったり
ときどき 無口になったりした
あなたはとても
遠く遠い夢を持っていて
よく わたしを忘れた
その間はいつも
通り過ぎる船の汽笛が
わたしの手を握ってくれた
船が行ってしまうと
いくつもの波がよせては返し
涙はそこまでつづいてのみこまれる
本当は追いかけてほしかった
そうしていつだってあなたは
涼しくたちあがり
わたしは波のことを忘れてしまう
わたしでない何かを追いかけて
わたしを忘れている間
あなたはいつも やさしい
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ここのところの暑さは
かなわんね、と
足元で声。
室外機のうしろ
干からび寸前の
トカゲが
ペラリペラリとにじる
爬虫類系、得意じゃないけど
手のひらにのせてやった。
こう毎日毎日暑くっちゃ
たまんねぇな、
で、いい場所を見つけたと思ったら
3日ほど前だったか、
突然そいつがブーンて音をたてて
震えだしたんだよ。
そのうちだんだん熱くなってきて、
おいらも逃げりゃあいいのに、
何か期待しちゃったんだなぁ。
そのままはりついてたらこの様よ。
トカゲは聞いてもいないのに
一気にしゃべり終えた。
声もカスカス。
とりあえず
今年一番の暑さでした、と
夕方のニュースが発表してた3日ほど前
のぼくが
今シーズン初めてエアコンを作動させたことは
だまっておいた方がよさそうだ。
罪悪感と嫌悪感ともうひとつの
よくわからない愛情にも似た気持ちから
トカゲに秘密の液体を注入してやった。
こいつは花壇のケイトウにもよく効く。
みるみるうちにペラペラはプルプルに!
ま、これで
その辺の大人(特に女の人はね)がうわっ、なんて
ビックリするにせトカゲのオモチャくらいには
なったんじゃないの。
それを聞くとトカゲは
目をギラギラ、いや、キラキラさせて
隣の井上さんちへと這いずりだした。
腹が、歩くたびにプルプルとふるえて
足跡ならぬ腹跡を残して
中に消えた。
ああ、
秘密の液体入れすぎたかもしれない。
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路上の車の窓ガラスを
ツバメの低空飛行が横切る
それを見ないふりをして
7月はやってくる。
その間にもわたしは
あなたのことを見ている
アジサイの花びらで
四つ葉を作ってよ。
次の瞬間にはきっと
何もかもが可能になると
その間にもわたしは
しっかと
握りなおし たしかめた
手の中には
水色の傘、
だったか。
それとも
螺旋階段のてっぺん。
夕立を撒いて走りゆく
白い制服の彼ら
の頭上をかすめて雨雲は足早に
遠ざかる
その間にもわたしは
あなたのこときり 見つめられずに。
いつも
通り過ぎたあと、気づく。
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ここに来るまでずっと
つま先だけ
見ていた
たどりついたとき
誰かが待っていて
ほめてくれたりする
どこかはどこ
軒下に避難した朝顔も
こうべを垂れるので
昨夜から宿っていた雨粒は
無抵抗にしたたる
天気予報にせかされて
踏み出す
朝顔はもとの場所へ
もはや
足跡は重要ではなく
大切なのは、そのもの。
つま先はそれを知っている
つま先の健在。
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見上げると
空は昼寝をしていて
そのすきに
雲は氷になっていた
このごろは
どうにも喉がかわくんだよ、
と手を伸ばしても
風
涼しいかたまりが
つるんと通りすぎて
ぼくはまた
背中を見つけてしまう
きみがいたあの頃も
喉はかわいていた
のだろうけど
もう何もおぼえていない
何も おぼえていないんだ
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前も後ろも
音はなく
深く深く まで
たどりつきそうになる
手や足や
髪の一本一本が
光る砂を撒き散らしても
まぼろしの
忘れたように見えることと
忘れたこととは
ちがった
気づかない合図も
しかたのないこと。
とはいえ
あなただけは
深く深い場所で
手招きをしても
夜光虫の舞。
知ってか知らずか
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はかりしれないほど
白いカール
次の瞬間にはもう散り散りに
泡
退屈だから
ゲームでもしよう
三角波を数えて
せーの、で
ライド。
今ならまだ
右にも左にも
踏み出せる
生まれた瞬間
エネルギーを放出し
波頭は白く
消えゆく
いつだって
目標の一歩手前で
日が暮れて
さよなら
それがイケてるシナリオ。
そうだろ
深夜。
海の写真集を一枚めくると
はるか遠くに
108つ目の波が砕ける音を
聞いたような気がして、
窓をあける。