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メモ 孕夜帖
2011/02/23(Wed) 夢。 或る広い世界で、私は逃げ回る女を追っている。理性を失しけたたましい悲鳴を上げながら転げまわる彼女を、私は鬼と獣と男の間アイの仔のような、邪悪な存在と化して追っている。 或る大きくて狭い世界に閉じ込められ女を犯し、損ない、嬲り、殺し、また犯し、喰らい、そして犯す。自分の害意の出所が分からず、不思議に思いながら、それを繰り返す。 私の手に掛かった彼女らは暫く頑張るが、直ぐにくたばり只の肉に成る。私は肉に成った彼女らに男根を出し入れするが、達する前に屍を食い尽くしてしまう。 私には視得る、女に戻り、口を拭く自分を。千切れた血肉に飾られた口歯が人のものではないことを。私は何かが胎に宿った事を知る。 これは、夢だ。 私は私に襲い掛かり掴み殺すと、その腹を裂いた。発アバかれた子宮は破れ、中から二本の腕が伸び出てきて、一本が私の右肩を掴んだ。 私には視得る、腕の生え際に、瞑目する濡れた顔面が覗くのを。それは弟の面オモテだった。私は開口ヒラく、邪鬼の口を。人外の証明に、百八十度近くまで開口したそれを、眠るように安らかな表情の弟へ振り下ろす。私の胎に宿る弟が腹に還る瞬間を捉えようと、眼を口内に見開き、凝らす。 正にその顔面が咬み潰され削り取られ一つの巨大な咬傷と化そうとしたその瞬間、彼の両目は見開かれ、口が動き、迫る私の口内へ向けて、おはよう、と呟いた。 ―✕−✕−✕−✕−✕−✕−✕−✕−✕−✕― 驚いて、思わず突き飛ばしてしまい、姉は間抜けな体勢でつんのめる事となった。 肩口の傷口を抑える手を押しのけて、血が溢れて来るのが分かって、その一種いわく言いがたい感触だけでもう俺は貧血を起こしそうになる。いまの俺には鏡は敵だ、見るだけで失神する自信があるぜ! なので、姉の個室の壁に立てられかけた身映しから必死の思いで眼を逸らし、助けを求めて姉に視線を投げるも、隅の柱に後頭部を激突して八倒する彼女は見るからにそれどころじゃなさそうだった。 深呼吸をし、素数を数えて精神を安定させ、脱ぎ捨ててあった姉のシャツを拾って傷に押し当てる。姉がのた打ち回るのを止め、再稼動したのを確認し、俺は薄い視線を彼女に向けた。 「姉ちゃん……」 「悪い」 「悪いとかじゃなくてさ……」 「本当、悪かった。寝惚けてたんだ」 姉は顔が引き攣っている。思い切りぶつけて出来たでかい瘤を痛そうに摩っていた。 「何処の世界に寝惚けて弟に咬み付く人間がいるんだよ!」 「手当てしような。人間の咬み傷は危ないから」 「お姉ちゃん起こすの本当もうやだよ、俺……」 「消毒しような、今日は私がお茶入れてやるから」 「姉ちゃん」 「救急箱テレビの下だっけか、取って来る」 「どんな夢見てたの」 姉が、慌しく襖の向こうに消えていくのが見えた。 答えは無かった。 浮浪霊
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